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第63回ゆのみん企画【海賊】海賊に恋をして 5

『このままでいいから……泣くな……』


それはほんの僅かな時間だったのかもしれない……

いや……


僕にとっては…長い長い時間にも感じた…。



この匂い……


あなたは………



『どうっ……して……?
どうして……こんな事……するんですか………?』


『理由などない。ただ…お前の涙をみるのは…嫌なのだ……』

『僕は…何もない…
僕には……もうなにもない。

それを憐れんでいるのですか……?』


『……………』


『僕から…何もかも奪っておいて、
なぜこんな事をっ………』


『…………』

『離してください………
離して………』



『すなまかった……』


その言葉と共に、
僕を捕えていた腕が…ゆっくりと解かれる…


そして聞こえる靴の音……

甲板に響くその音色は…どこか寂しく響く。


離れた途端に、
僕の背中に感じるのは……冷たい風だけ。


遠のいて行く靴音……


それでも振り返る事が出来ない僕を後押しするように、
船の汽笛が鳴った。


その刹那……



僕は思いっ切って振り返る。


『あのっ……!!』


そこは漆黒の闇……


そこにある人影だけを感じる事が出来るその場所……


『…チャンミン……お前……この船を降りたいか……?』


『えっ……?』


『お前が泣くのなら、
この船から降ろしてやろう………
お前が望むなら……自由に………』


『なにっ……言って…………』


『私はお前を泣かせるためにここに置いている訳ではない。

……降ろしてやる。

だから泣くな。』




それだけ言って、
また足音は遠ざかる。

僕は急いであとを追ったが、
風に靡く長い髪だけが見えたと思ったが、

すでにその人は居なかった…………




でも分かるんだ。


あの声……

あの匂い……


確かにあれは………







それからその言葉がまるで何も無かったかのように、

毎日は淡々と過ぎて行った。

相変わらず僕は甲板に立つことさえもなく、
雑用だけをさせられる日々。



『おい、新人。明日、久しぶりに港に停泊する。
俺たちに休みは無いぞ。また食料の積み込みがある。
今夜は早めに休むんだな。』


……港………

『お前を降ろしてやる……』

ふいに思い出したあの時の言葉。


あの人にはあれからも一度も会えてない。

こんなに広い海の上。

けれどこの一隻の船の上だと言うのに…一度も…………

同じ船に乗っているのに、
一度も会えないなんて…

あの人はいったい何を……



その時だった。

『襲撃ーーーーーー!!』



その声と共に、
船が大きく揺れた。

それは今までにない衝撃で、
僕は食糧が入っているタルに身体を強く打ち付ける。


『新人!!!大丈夫か!!』

『………はい……』

頭を打ち付けてしまい、
グラグラ視界が揺れる。


『いいか、ここから出るんじゃねぇ!!
分かったかっ!!お前は絶対に出るなっ!!』

それだけを言い残し、
その人は甲板へと走り出す。

追いかけようとするけれど、
外から聞こえる声に足がすくむ。

剣と剣がかち合う音。
大勢の人間の罵声。
そして…その合間には……うめき声……。


波に揺らされているだけのこの船が、
更に大きく揺れているようで、
僕はその場から動く事が出来なかった。


怖い……怖い………

ただ耳を塞ぎ、
身体を小さくした。


僕が持っているものなんて、
この小さなナイフ……

野菜の皮を切るだけの…小さなナイフだけ。


それを手に、
外から聞こえる声にただただ耐える。


『船長はどこだーーーーーー!!
船長を討て!!
船長室に向かえーーーーーー!!!』



この船では聞き慣れない発音の言葉に、
一瞬怯む。


敵陣だ……

敵陣が…船長を………


ふいに蹴られるドア。

いや……誰かが倒れる音……?


『……お……おっ……い……新人………動くなよ……そこに……隠れて…ろ……………』


この声は…さっきの……

『まちがって……も………出るな………お前を傷付けるなと………船長に……言われ………』

ドアの下から部屋に流れ込むのは……血…………


『いや……いやっ………』


僕は上手く呼吸が出来なくなる。


『いっ……いや……だっ………はぁ……はぁ……』


『おちつけや……新人………俺は…大丈夫……だ……ちと……足をな………』


『やっ……やぁ………』

『俺がここを塞いでる……お前はそこを動くっ……んじゃない………』


ブルブルと身体が震えだし、
もはや自分でも抑える事が出来ない。


怖い……

怖い………!!


『大丈夫だ………新人………お前は傷付かないさ………
船長が………ユノ船長が………必ず……お前だけは……………』



ユノ……船長………?

僕の事なんか…なにも考えていないようなあの人が……僕を……?

そんな訳ない。

あの人は……僕を降ろすと言った。

闇に隠れてしまったあの人は、
確かに僕に言ったんだ…。


あの人の役にも立たないこんな僕の事なんか………

僕は捨てられるんだ……
このまま……きっと………




『船長!!覚悟っ!!』



突然響いた声………

そして……剣の音…………



それは僕の居る部屋の前で、

確かに何かが斬られる音と共に鳴り響いたんだ…………。







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