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海賊に恋をして 26


『あの…料理長…教えて下さい!!』

『ん?どうした…?チャンミン。
そんなところに立ってないでこっちに来なさい。』

ユノの許可を得たチャンミンは、
その日から厨房に入る事になった。

今までは甲板に上がる事も許されず、
ずっとずっと暗い食料庫で時を過ごしてきたチャンミン。

しかし今は違う。

ユノから正式に認めてもらって、
この船の一員となった。

自分の居場所が出来たチャンミンにとって、
毎日が勉強で毎日が発見。

ユノと対のピアスをしているチャンミンは、
いつの間にかこの船の人気者になっていた。


『チャンミン様!!』

まだ格下の若い乗組員たちにはそう呼ばれ、
すれ違う度にお辞儀をされる。


『やっ……止めて下さい!!
僕はただの見習いなんです!!
様…だなんて…ほんとっ…止めて下さい……』


『なに言ってんっすか!!
船長の大事な人なんですから、
俺たちにとってもチャンミン様は大事な人っす!!』

『そ……そう言うの…僕…嫌なんです…
僕の方が新人なんですから……
お願いですから…普通に…してもらえませんか……?』


『ダメダメ!!俺たちが船長に怒鳴られるっす!!
チャンミン様、その人参、食料庫っすか?厨房っすか?』

『だっ…ダメです!!
これは僕の仕事なんです!!
ユノさん…あっ…船長に…僕…叱られます。
お願いですから返してください!』


『いいいからいいから!!
チャンミン様は気にしないでいいっすから!!

おい!これ、運ぶぞ!!』


『はい!!』


『だから返してくださいってば!!
やめてください!!』


人参がたくさん入っている麻袋。

正直…チャンミンにはとてつもなく重いものだったが、
船員たちは軽々と持ち上げる。

『すごい……!!みなさん…重くないんですか?』

『チャンミン様、
こんな軽いもの、俺たちには朝飯まえですよ!!』

『みなさんは…すごいですね…
僕なんか…何も出来ないのに……』

『??
チャンミン様は笑ってればいいですよ!!』


『笑ってる…?』

『ういっす!
なんか不思議なんっすけど、
チャンミン様がこの船に乗ってから、
なんて言うか…この男ばっかりの船が一気に明るくなった気がするんです。

それに…この前の串焼き、チャンミン様が味付けしたって聞きました。
あれ、最高に美味かったっす!!』

『あっ………味…大丈夫でしたか?』

『超美味かったっす!!
なんかその日一日、頑張れるって言うか、
ほんと、最高に美味かったっす!』

『…良かったぁ…ユノさんにも食べて欲しかったんだけど……』


そう言って、
チャンミンは船長室を見上げた。

『あっ……』

『やべっ!!船長、こっち見てる!!』

『はっ?やばっ!俺たち、持ち場を離れてるんだった!!
すいません、チャンミン様!!
俺たちはこれで!!
人参、食料庫に運んでおきます!!
おい!行くぞ!!』


船員たちは船長室をチラチラと見上げながら、慌てて食料庫に入って行った。

…あっ…さっきそこから出したのに……。

チャンミンはクスッと笑いながらも、
もう一度船長室を見上げた。

その窓辺に立ち、
こちらを見下ろしているユノ。

そのユノに向かって、
チャンミンは胸の前で小さく手を振る。

ハニカミながら顔を真っ赤に染めるチャンミン。

そんなチャンミンに向かって、
ユノもまた小さく頷いた。







『ユノ様…最近よく…笑われていますね。』


ユノの後ろにはミノ。

船長室でこの先の航海図を一緒に眺めていたミノは、
ユノの後姿にそっと呟く。


『なぁ…ミノ……俺はチャンミンに何が出来るだろうか……』

ユノは振り返る事なく、
静かに尋ねる。


『ユノ様……?』

『あいつには笑って居て欲しい…。
ただ…笑って……なにも辛い思いもせず…、
戦いのない日々で…このまま……』


『ユノ様……この船に乗った以上…戦いは避けて通れません…。
それでもあなたは誓ったはず…
チャンミンを守っていくと…。』

窓際に立ち、
甲板を見下ろすユノ……。

食料庫から再び麻袋を持ち、
その重さにフラフラしながら歩くチャンミン。

なにかに躓き、
麻袋から大量の人参がこぼれ、
それを慌てふためいて集めるチャンミンに優しい微笑みを落とすユノ。

チャンミンはチラリと船長室を見上げ、
恥ずかしそうにしている。

そんな姿に、
ユノは声もなく微笑む。

太陽の光が海へと反射し、
その可愛らしい笑顔を包み込む。

なんて穏やかな時間……


なんて心が温かくなるようなゆっくりとした時間だろうか……


このまま…何もなく……



しかし、
それが叶わない事くらい…ユノは痛いくらいに分かっている。


だからこそ…怖い。


この時間にいつか終わりが来る事が。






『ユノ様…
チャンミンは今…心から笑っています。
あなたの傍に居れる事……それが生きる何よりの糧となり、
そして…その想いのもと……あの者は今幸せの中に居ます。
もっと…自信を持ってはいかがでしょう…』

『自信……』

『はい。そしてあなたもまた…幸せになるべきです…
確かに今は穏やかな日々…
しかしもう少しであの海域に入ります。
国王も言っておられたあの危険な場所…。

民には海賊船と呼ばれているこの船であっても、
その本当の姿は警護船……。

国の治安の為に密に組織された立派な使命があり、
私たちには課せられた任務があるのです。

真の海賊どもと戦い続ける任務があるのです……』

『分かってる……』


この先、
この船は国と国の境界線に入って行く。

陸から入れない他国の者が、
海を越えて侵略してくる危険な地帯。


そこで警護を行う海域に入ろうとしている。


戦いは…避けては通れない。



海賊との戦い……

それは常に死と隣り合わせ……。

船に乗っている以上…、
敵からすればチャンミンもその標的になるという事……。


ユノは大きな溜息を一つおとす……。



チャンミンを優しく見下ろすユノのその後姿に、
少なからず寂しさと不安を感じるミノ…

自分は…ユノをずっと見て来た。

ユノの片腕として、
この身を呈してユノを守って来たミノ…

ミノはユノに対して忠誠心とはまた違う感情をずっとずっと持って生きて来た。

そんなユノが今は…チャンミンと言う光を手に入れた。

決して敵わないその光……。

ミノは複雑な想いを抱きながら、
それでも今、目の前に佇むユノを支えていきたい…
何があっても守りたい…それだけを思っていた。


『ミノ…』

『…はい。』

『お前には感謝している。お前のおかげで…こうして………』

『いえ…私はなにも……』

『これからも……よろしく頼むぞ…ミノ………』

『はい………』

顔だけ振り返って微笑んだユノを見て、
ミノはチクリと胸の奥が痛んだ。








コンコン…………


真夜中にユノの部屋がノックされる。


『…何者…』

『あっ……あの…チャンミン…です…』

『チャンミンか…?入れ…。』

『あっ…あのユノさん…こんな時間に…すいません…』

チャンミンが中に入ると、
ユノはベットに座り本を読んでいた。

『どうした?チャンミン。入りなさい。』

『あっ…お勉強…中ですか…?』

ドアの前で佇むチャンミン。
なかなか中に入ろうとしないチャンミンに、
ユノは読んでいた本を閉じ、
優しく微笑んで立ち上がった。


『どうした…?』

『あの…ユノさん…これ……』


『なんだ…これは…?』

『あっ…っと……えっと……りんごのパイです…。
料理長から…ユノさんの好きなものを聞きました……
本当は…いちご…がお好きなんですよね…?
でも…この船に…いちごは無くて…』

『ふふ…。いちごは高級品だぞ、チャンミン。
この船にはない。』

『でも…お好きなんでしょ…?
僕……いちご…食べた事なくて……。
料理長にいちごが食べたいって言ったら、叱られちゃいました。

「そんなものはない」って……。

でも…ユノさんの好きなもの…作りたくて……。

いちごは無かったけど、
ユノさんは甘いものがお好きだって聞いて……僕…これ…作ってみました…』

『チャンミン…』

『あっ…でも初めて作りました……
美味しいかは…分からないけど、
甘くなるようにお砂糖たくさん入れました。
それに……』

『ん?後は何を入れたんだ?』

『いや…あの…美味しくなれ…甘くなれって…願いを込めました…』

そう言って頬を赤らめ俯いたチャンミン。


『チャンミン…それ、美味しそうだな?
食べてもいいか…?』

『あっ…はい!!
ユノさんに作りました!』

『なら…もっとこっちに寄りなさい。
そんなに遠くからでは手が届かない。』


その言葉に、
慌ててベットに駆け寄るチャンミン。


『はい!ユノさん!!これ食べて元気になって下さい!!』

『元気……?俺は別に…。』

『でもお昼にお見かけした時、
元気が無かったように思えて。
だからこれを作りました。
僕に出来る事はそれしかなかったから。』

そう言ってパイの乗った皿をぎゅっと掴むチャンミン。

そして、
おずおずと差し出したその仕草があまりにも初々しい。

ユノはその仕草にドキリとする。

『ありがとう。チャンミン。頂くよ。』

『はい!』





『…あの…ユノさん…美味しいですか?』

『うまいよ、チャンミン。』

『あ…甘いですか?』

『かなりな…』

『だっ……ダメでしたか?!』


ユノの顏を覗き込みながら、
その反応を待つチャンミン。


『チャンミン、言っただろう。
お前の作る料理はなんでも美味しいと。』

そう言いながら、
ユノはチャンミンの頭に手を乗せた。

『よ…良かった……僕…はじめて作った料理で…緊張しました…』


『美味しいよ…チャンミン。』



『僕も…剣が振れたらいいのに……』

パイを頬張るユノの横で、
チャンミンがぽつりと呟いた。


『…お前は料理をしていればいいだ。
無理してそんなものを振る必要はない。』

『でも……僕もいつか戦う事になります。』

『…チャンミン?』

『僕…聞きました。
この先…とても大変な場所に行く事を。
だから僕もちゃんと…』

『…そうか…聞いたのか…?』

『はい……だからこそ、
明日からは皆さんの身体の為に、
メニューが変わると聞きました。

僕…一緒懸命に頑張って皆さんの為に美味しい料理を作ります。

でも…僕だって剣を…習いたいです…』

ユノの傍にある大きな剣を見つめながら、
チャンミンが呟く。


『…なら…俺がお前に教えよう。』

『えっ…』

『確かにお前の言う通り、
この先は危険な場所に行かなくてはいけない。
お前も…少しは剣術を学ぶべきだろう…

自分の身を守れる様に、
俺がお前に教えてやる。』

『…いいんですか…?』

『良いに決まってる。明日から始めるか?』

『いえ!今日から…今から教えて下さい!』

『ふっ…良いだろう。
パイのお礼に今から教えてやろう。』

『はい!!』


こうしてチャンミンの特訓が始まった。

それは誰もが寝静まった甲板の上で、
この国で一番の剣術を持つユノと言う最高の師のもとで…。


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