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海賊に恋をして 27

その日の夜から、
ユノとチャンミンの剣術の訓練が始まった。

『まずはチャンミンにこれをやろう。』

そう言ってユノは左腰に携えていた短剣を手渡した。

『こんな小さな剣………?』

チャンミンはユノがいつも右の腰に付けている剣ばかりを見ていた事もあり、
今、自分の手に納められている短剣に拍子抜けした。

『チャンミン。よく覚えておけ。
剣に長いも短いもない。
そんな小さな剣であっても、
確実に人を死に追いやる事が出来る。
もちろん…自分もだ。』

その言葉にドキリとする。


今まで料理をするためだけに持っていたナイフとは…訳が違う。

目的も違えば、
今、これを手にしている自分の思いさえもまだ覚悟はついていない。


自分は今……戦う為の術(すべ)を学ぼうとしてる。

つまりは……この小さな短剣で……人を……


そう思った瞬間、

チャンミンは怖くなって、
手にしていた短剣を放り投げた。


意図せず手が震え、
月の光と僅かに灯るたいまつの明かりに反射してるその刃先に恐怖を感じた。



『チャンミン。剣を捨てるという事は、
自分の命を投げると同じ。

敵が命懸けて向かってくるその全てに負けた事になる。』


…敵も命懸け……



『チャンミン…お前の覚悟は…そんなのものか?』



ユノはいつもの様にマントのフードを被ったまま…。

僅かに見えるその口元。



『チャンミン…お前はなんの為に剣を持つ…』


『……僕は…………僕も……戦いたい………
ユノさんの為に……僕も強くなりたい……

でも……でも………』


怖いんだ……

これで……誰かを…傷付けると思うと………


その時、

ユノがゆっくりと自分の剣を抜く。

マントを被ったまま……言葉なく静かに……。



『チャンミン……剣を拾え。
そして…俺にかかってこい。』

『ユノ…さん……?』

『剣を取らねば…お前を斬る…』

突然吹いた風に、
ユノが被っていたマントのフードが脱げ、
今まで隠れていた目が現れた。

月の光に浮かぶその瞳……。

その目はまるで矢を射る様に鋭く、
そして今までに見た事のない程…重くチャンミンを睨みつける…。

『チャンミン…剣をとれ。
さもなくば俺は…お前を斬る。』


そう言いながら、
ユノはチャンミンに向かって剣を構えた。


『ユノ…さん……?』

『お前の覚悟はその程度のものか?
お前は俺に剣を向ける事なく、
このまま俺に斬られるのか?

チャンミン。


剣を取れ!!


そう叫んだ瞬間、
ユノは大きく剣を振り下ろす。

チャンミンの鼻先を掠める剣刃……。



『っつ……!!』


『今度は本気で斬る。
お前は強くなりたいのだろ?

ならばチャンミン、俺に向かって来い!!』


その声と同時に、
ユノは再び剣を振り上げる。

そのあまりの気迫に、
チャンミンはユノの本気を知る。

ユノは剣を手にするという事がどういう事なのかを、
自分に教えようとしている。


剣を手にする本当の意味を……




チャンミンは足元に落とした剣を拾った。

そして、

後退りをしながらも、

その震える両手で短剣を構えた。



『ユノ…さん………こう……?』


『そんな構えでは隙が多すぎる。
脇を締めろ。

脇を開けた瞬間、
敵はその隙間に剣を差し入れる。

そうなれば…お前は腕を失うぞ。

料理をするその手を奪われるのだぞ。』


『はっ……はい!!』


『そうだ。しかし、腕に力を入れるでない。腹と背に力を入れるのだ。
腕力に頼らず、逆に腕力を消すのだ。』


チャンミンはユノの一言一言を堅実に受け止め、
その言葉通りに身体を動かす。

ユノの言葉通り、
ユノの目を見て。

今まで手にしたことのない剣。

震える手のまま、
チャンミンはユノが自分に伝えようとしている全てを身に付けようと身体を動かすも、
なかなかうまく行かない。

腰が引け、
震える手も止まらない。


『そうではない、チャンミン!!』

ユノは自分の剣を腰に戻し、
チャンミンの後ろからその両手を包み込む。

『お前は剣を持つ指が違う。
そう……こうだ。
そして肩の力を抜け。

剣は力で振るものではない。

いいな?』


震えるチャンミンの両手に重なるユノの大きな手。

それを見つめながら、
チャンミンは懸命にその動きを身体に覚えさせる。

ユノの動きの全てを身体に刻むよう、
チャンミンは必死になって剣術を習った。


『よし。今日はまだ初日。
まずは構えだけでも覚えたであろう。
あとはお前の気持ちしだい。

そしてチャンミン……

一番大切な事を教えよう。』


『一番…大切な事……』


『そうだ。

お前はこの剣で何を斬るのだ?』

『…それは……敵……人間を……』

『それは違うぞ、チャンミン。』


『えっ……?』

『確かにこの剣は敵を討つ為のもの……

戦いでいかに相手を倒すか……

しかしそれは違う。

この剣は…自分の命…そして仲間の命を守る為のもの……

剣を振るうその時は…守りたいものがあるからこそなのだ。

剣を振るう必要があった時こそ、
迷わずに剣を抜くものだ。


そしてその時には……人の命を奪う事にもなる。

その者にも命があり、
剣を抜かなければならない理由があったからこそ、
敵も命を懸けて自分に向かってくる。


ただ単に、
敵を斬る為ではない。


自分を…大切なものを守る為にこそ、

剣を振るうのだ……。


いいな…チャンミン……

お前の守りたいもの………

それが危険に曝されている時こそ、

お前は剣を抜け。

それを守る為の剣術を、

俺はちゃんと教えてやる。

そして、

俺を守る為などと思うな。


この剣はお前にやろう。

この剣でお前はお前を守れ。


自分の為に強くなるのだ。

いいな、チャンミン……』


『はい……』



剣の刃に掘られているのは……初めて見る紋章……

短剣の柄には豪華な彫り物……

これが特別なものだとすぐに分かる。


『でも…これって…大切なものじゃ……』


『お前にやろう…この剣は今まで私の命を守ってくれたもの……

きっとお前の事も守ってくれるだろう…


今夜は夜風が冷たい…。

チャンミン、早く部屋に戻って休むといい。

また明日…お前に教えてやろう。

それは肌身離さず持っているのだ。

いいな…チャンミン………』


そう言ってユノは再び船長室へと戻って行く。

一人残された甲板の上。

チャンミンはユノから貰った大切な短剣を握りしめ、

それを空に向かって高く掲げた。

月の光を受け、
刃がキラキラと光る。

チャンミンはその刃に映る自分の目を見て思う。





僕が…守りたいもの………


それは…やっぱりユノさんだけだよ……


僕はユノさんを守りたい…


その為に僕は……強くなる……。


剣術も…この心も………。


そしてユノさんの為に、

この剣で僕は僕を守っていく…………


チャンミンはその日、

たいまつの灯りが消えても、

波の音しか聞こえない甲板の上で、
剣を振り続けた…。



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