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海賊に恋をして 29


『チャンミン!!そっちの肉、さっさと捌けよ!』

『はい!!』

『おい!ルハン!!なにやってんだ!!
それはそっちじゃねぇだろ!!こっちに入れろや!!』

『すっ…すいません!!』


避けられない戦いを前に、
直接戦力には加われない厨房の中。


それぞれの役割でみんなが慌ただしく駆け回る。

チャンミンが居る厨房の中も、
戦闘部隊の為に必死で料理をしていた。


実際の戦いを目の前にしたことのないチャンミンも、
それぞれの気迫ある顔を見ていれば何となくわかる。


それにユノさん……

最近のユノさんはとっても怖い顔をしていて、
なかなか自分でも近寄れない感じだった。


戦いはすぐそこなんだ……


本当の戦いが………。




毎日剣の練習に付き合ってくれていたユノも、
迫る戦に船長室から出なくなっていた。

その為、

この何日間かユノに会えていない。

食料庫から厨房に向かうほんの僅かな時間に見上げる船長室。

いつもはそこからユノが見えた。

甲板の様子を見ながら、
時に自分に小さく微笑み返すこの船の船長。

しかし今日もまた、
そこにユノの姿は見えなかった。


『はぁぁぁぁぁぁ……』

チャンミンは今日も大きな溜息を一つ溢した……。


『あれ……?チャンミン…?』


俯いたチャンミンに声を掛けたのはミノ。


『どうした…?浮かない顔して…

って…取り締まりが始まるんだもんな…お前にとっては初めての戦になる。

そりゃぁ…怖いよな。』

『いえ……そうじゃないんです……』

『ん?』

『僕…最近…なんだかここが痛いんです…………』

そう言って自分の胸に手をあてるチャンミン。


何を言ってるのか分からないと言った様子のミノだったが、

チャンミンが見上げる視線の先を見てその理由がすぐに分かった。


『ユノ様…か?』


『あっ…えっと……………ミノさんにこんな事を聞くのは…あれなんですが…
ユノさんは……お元気…ですか?

最近…全然ユノさんにお会い出来なくて……

僕が作ったお料理も……ほとんど食べてらっしゃらない…って聞いて…

どこか…お身体の調子でも悪いのですか?』


『ふっ…そんな事か…?』


ミノは大きな溜息をついて、
チャンミンの頭に手を添えた。


『ユノ様は激務に追われている。
これからの策を練り、国王からの命を受けている。
船長と言うのは…本当に大変な仕事なんだよ。』

『それは分かっているつもりなんですが……』


ここはどこまでも続く海の上。

その海からすれば、
小さな小さな船の上。

同じ船に乗っているのに、
こんなにもユノに会えないなんて…。
自分の中で大きな寂しさに変わる。

『そんなに…寂しいのか…?』

『…でも…しかたないです……

僕は結局、料理しか出来ないし、
ユノさんのお力には…なれないから…。

ミノさんもすいませんでした。

お忙しいのに……』


そう言ってチャンミンはミノにお辞儀をした。

『俺は…ユノ様に比べたらなんてことない。
あの人の心内は…俺なんかよりもっとお辛いだろうからな…』

『はい…では…調理長に叱られちゃうので、
僕はこれで失礼します。』

再び大きな麻袋を持って、
フラフラしながらチャンミンは去って行った。

『ユノ様も…寂しがっておられるぞ…』


その声がチャンミンに届く事は無かったかもしれないが、
ミノはそんな後姿をしばらく見つめていた。







『船長…この作戦では…』

『分かってる。』

『得た情報だと、
こちらの動きもすでに相手に知られている様子。
策を変更すべきかと。』

『分かっている!!』

ユノは度重なる作戦の変更に毎日心を削られている。

何故なのだ…
何故…こちらの策が漏れている…。


この船に裏切り者が………。


ユノには直感があった。

何度考えてもこちらの策が相手国に漏れている。

この船の中に…裏切り者が……。


ガンっ!!


ユノは航海図を広げていた手をテーブルに叩きつける。

『船長……』

『なんでもない。少しだけ一人にしてくれ。』


何故だ……

今までこんな事は無かった。

情報が漏れる。

それがどんなに危険な事か分かっている。

こちらの策を全て把握され、
その逆をついてくる。

これではいくらこちらの隊がどんなに優れていようが、
どんなに装備を整えていようが、
なんの意味もない。

無駄に命を削り、
船とともに沈むだけ…。


船長として誰かの裏切りがあるこの船では、
太刀打ちできないどころか、

そのうち…この船の上で首を斬られかねない……。


いったい誰が……

いったい誰が情報を漏らしているのだ……!!


握られた拳。

そこに浮き出る血管がいまにも弾け飛びそうなくらいだ。

このままでは…

このままではっ……


『ユノ様…ミノでございます。』

そんな中、

誰よりも信頼しているミノの声に張り詰めていた緊張か解れる。

『ミノか……入れ。』

『はい。』

『お前はもうよい。下がれ。』

一緒に居た幹部を下がらせ、
ユノは棚に並べてある無駄に高級な酒瓶に手を掛ける。


『ユノ様…呑まれるのですか…?』

ドアを締めながらミノが訪ねるも、
ユノは視線を向ける事なく、グラスを手にした。

『ユノ様?何か…あったのですか…?』

『なにもない。ただ飲みたくなっただけだ。お前も付き合え。』

『ユノ様……』


ユノが酒を手にするのは稀な事だった。

元来ユノは酒を飲まない。

しかし船長室に並べられている高級な酒。

それに手を掛ける時はたいてい………。


『ユノ様…お付き合いします…』


ミノはユノが酒を手にする時…その心内が分かる。

ずっと傍で見て来たのは自分…。

だからこそそれを言葉にせず、
ただユノに寄り添う。

背負い切れない事と分かっていても、

この人は全てをその背に受ける。

だからこそ、

ただ傍に…。


ユノが差し出した酒。

その顔はいつもの様に俯いているが、
ミノは静かにそれに口を付けた。


『ミノ…お前は俺を信じるか?』

『ユノ…様?』

『お前は俺を信じてくれるか?』

なにをいまさら……


『私が信じるのはユノ様…あなただけ。
あなたの歩む道をただ…私はついて行きます。
たとえ…どんな事があっても。』

『そうか……』

『ユノ様…?』

『なんだ?』

『チャンミンも居ます。』

『………』

『チャンミンもあなたに会いたがっておられますよ…
そして…あなたもチャンミンに会いたいはず…。
今夜は戦の事はお忘れください。

私は酒に酔ったようです…
今日はこれで……』

ミノは酒を一気に飲みほし、

『このグラスは厨房の者に洗わせます。
すぐにお返ししますので…』

そう言って部屋から出ていった。


ユノはそんなミノの言葉に、
大きく息を吐く。

そして窓際に立ち、
心を無にする。

目を閉じ、
海に浮かぶ大きな月に目を向ける。

今の自分の心が嫌になる。

誰かを疑い、
裏切り者を探さねばならぬ。

ユノは呑めない酒を一気に胃に流し込んだ。


コンコン……


再びの訪問者に、
ユノは顔を顰める。


『なんだ…』

こんな時にもう誰の顔も見たくない。

ユノは睨む様にドアを見つめる。


『あの……チャンミンです…

ユノさん……あの…入っても……良いですか……?』

その声にユノは初めて身体の力が抜ける気がした………。




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