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海賊に恋をして 30

『ユノさん……入っても…いいですか……?』

耳を澄まさないと聞こえない程の声……。

その声にユノはゆっくりと部屋のドアを開ける。


『チャンミン…どうしたんだ…?こんな時間に……』

『あっ…あの…ミノさんがこれを持って行けって……。
もう夜も遅いから…その…迷惑かとも思ったんですが……』



ミノめ……。余計な事を…。

そう言いながらも口元が緩む。

『そうか…入りなさい。』

ユノはドアを大きく開け、
チャンミンを招き入れた。


『あの…ユノさん…お身体は…大丈夫ですか…?』

ドアを締めながらチャンミンがそう言うと、

『身体……?どこも悪くないが。』

『でも……』

『どうしたのだ、チャンミン。』

ユノは再び窓際に立っていたが、
ゆっくりと振り返る。


ユノの後ろには大きな月が見える。


今日はマントを羽織っていないユノ。



それも珍しいと思ったチャンミン。


月を背に受け、
その逆光からかユノの顏がちゃんと見えない。


『最近…ユノさんをお見かけしなくて…
僕……とても…心配…してました………』



なにを言い出すかと思えば……。


『チャンミン、まずは座ったらどうだ?
そのグラスは棚に置くと良い。』


チャンミンはチラチラとユノを見ながらも、
ミノに預かったグラスを両手で置いた。



『チャンミン…剣の練習…付き合えなくて申し訳ない。』

ユノはチャンミンの向い側に腰を下ろして、
そう言った。


その顔は伏せていて、
やはりちゃんと見えない。


ここに入ってから部屋の空気が重い事くらいチャンミンにも分かる。



それにユノ…

ユノの様子がおかしい……。

いつもは凛としているその姿が、
今夜はどこか儚げで。


チャンミンが今まで見ていたユノとはまるで別人の様…。




『ユノさん…疲れて…ますか……?』


チャンミンは何をどう話していいかもわからないまま、
口を開いた。

そんなチャンミンの言葉を受け、
ユノは小さく笑う。

『チャンミン…
お前には初めてだろうが、もうすぐ戦が始まる。

休んでいる暇はないのだ。

しかし、これはいつもの事。

お前が気にする事はない。』

『でも……
お食事………』



『食事…か……
正直…時間が無いという事もあるが……
ちょっとな…

食欲が沸かないだけだ。
気にするな……。』


『でも……。』


『チャンミン…俺の事はどうでもいい。
厨房はどうだ?』

その言葉と共に、
ユノがようやく顔を上げてくれた。



やはり前より痩せた様に思える。

この部屋の淡い照明だけでははっきりと見えないが、
影が出来るからこそ、その痩せた頬がくっきりと浮かび上がる。



そんなユノを見て、
チャンミンは突然大粒の涙を流した。


『チャンミン…?どうしたのだ?』

自分の膝に握りしめた拳を置き、
チャンミンは漏れる嗚咽を隠すように、顔を下げる。

『チャンミン、何かあったのか?!』


何も言わず涙を流し続けるチャンミン。


そんなチャンミンの傍に行き、
ユノはその顔を覗き込んだ。


やはりまだその頬には涙が流れる。


『チャンミン…泣いてばかりでは分からぬ。
どうしたのだ?なにがあったのだ?』

ユノはそんなチャンミンを見つめるだけで、
そうして良いのか分からない。

何故にチャンミンが涙を流すのか、その理由が分からなかった。


『チャンミン…どうした…?』


『僕っ……結局…ユノさんの力になんか……なれてない……』


『なにを言ってるのだ…』

『僕にはなんの力もない……
ユノさんが困っているのに何も出来ない……。
それどころか…、料理しか出来ないのに……それでもお役に立ててない……
僕は……僕はっ…どうしたらユノさんの…力になれますか……』



『チャンミン………そんな事……』

『ぼく……いっしょ…けんめい…頑張ってます……。

ユノさんの為に毎日……頑張って……

まだ仕込みくらいしか出来ないけれど、

それでも……それでも元気になってほしくて………』



更に咽る様に泣きじゃくるチャンミン。




そんなチャンミンの頭に手を置き、

ユノは大きな息を一つ吐いて、
その手を握った。




『チャンミン…よく聞け。

俺は…昔……信用していた者に……毒を盛られた事があった……』


『えっ……?』


『信用していた者が…運んだその料理を口にしてな…。

それから怖くなったのだ……

ましてや戦を控えたこの時期は特にな………。

今の料理長は心から信用しているし、
長年の付き合いだ。

しかしだ…チャンミン……、
過去にもそうであったように、
今もこの船には…………裏切り者が居るかもしれないのだ……。』

『うっ……裏切り者………』

その言葉にチャンミンの身体が小さく跳ねる。



ミノにも話さなかった思いを、チャンミンに伝えてしまったユノ…。

しかし……この船で誰よりも……何よりも信じているのは…、


チャンミン……。


本当は…、

この胸の内を誰かに話したかったのかもしれない……。

心に蓋をしていた疑念の想い。

一度言葉にした心は、

次から次へと溢れる…。





『そうだ…この船に…裏切り者がいるようなのだ……。

だからこそ…今は慎重に行かねばならぬ。

俺の言ってる意味が分かるな…?チャンミン……』


『……はい………』


『俺の事は心配いらない。

だからチャンミン…お前はお前で頑張るのだ。
この戦い……決してお前を傷付けない。
決して…船員たちを失わせない。

だからこそ、
俺は………』


『ユノ…さん………』



『チャンミン……分かってるな……俺と居るという事は…』

『『明日死ぬかもしれない』』


チャンミンはユノの言葉に重ねるようにそう言った。

先ほどまで流れていた涙は…もう乾いている。

そして、

真っ直ぐにユノを見つめるその瞳。



『ユノさん……お願いがあります……。』


『なんだ…』


『僕に……僕にユノさんのお料理を全部…任せて頂けませんか……?』


『なに?』


『ユノさんは僕を信じて下さる…。

ならば、僕がユノさんの為に、
仕込みから何から全部、僕ひとりが手を掛けます。

ユノさんが信頼している料理長に教えて頂いて、
それ以外……僕以外に絶対に手を触れさせません。

食器の洗浄から、
出来上がったものを運ぶまで、
全部全部僕にやらせてください!

僕……早起きだってなんだってします!!

だから……だから僕にユノさんのお食事の世話をさせて下さい!!』


チャンミンは必死だった。

自分に出来る事。

それはユノさんに食べてもらえる料理を作る事。


誰よりも大切なユノさんの為に、
自分がこの手でユノさんが口にするものを全て作ろう。

ユノさんが心から安心して食べられるように、
その全てを自分が……。



そう決心したのだ。

逆を言えば…それはチャンミンにとって何よりも幸せな事だった。

ようやく自分の居場所が見つかった気がして、
ようやく…ユノさんの力になれそうな気がして……。


まだまだ未熟だけど、
ユノさんの為ならもっと頑張れる。

自分に出来る事で。

ユノさんの為に……。




『チャンミン……』


『それと……あと一つだけ……』


『ん…?まだあるのか?』








『……ユノさん……今日はここに泊まっても……いいですか?

ユノさんと一緒に……寝ても……良いですか………?』



なにを言い出す……。


『ダメだ。いつ刺客に…。』


『だからこそ……傍に居たい……。

ダメ…ですか………?』




チャンミンの我儘だったかもしれない。


でも……ようやく会えたユノ…。

その心に寄り添いたかった。

その身に……寄り添いたかった。

どんなに対のピアスを貰っても、

チャンミンはユノの傍が一番…好きだった。


船長室からだけではなく、
もっと傍で。

チャンミンの言葉にユノは俯いた。


そんなユノの表情に、





『あっ…いえ…何でもないです。

僕…なに言っちゃってるんだろ……

ユノさんもお疲れなのに…。

明日…明日の朝食から頑張ります。

だから…ユノさん……ちゃんと食べて下さい。

ちゃんとお食事…して下さいね。』


そう言ってソファから立ち上がろうとしたチャンミン。




その腕を……咄嗟に掴んだ。



『おいで…チャンミン……』





その日、


ユノとチャンミンは身を寄せ合って眠りについた。

チャンミンはユノの温かさに包まれ、
この何日間の寂しさを忘れるほどに。

そしてユノもまた、
久し振りに穏やかな気分で天井を見上げる事が出来た。

常に剣を抱き眠っていた日々がまるで嘘の様。


この日のユノはまるで母の腕の中に居るように、
その身を包む柔らかな熱に誘われるように、

そっと目を閉じた…。



それは戦の命が下されてから、
初めて朝まで眠れた夜だった……。




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