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海賊に恋をして 35


『チャンミン…お前は…そんな事、望んでないだろう…?』


そう言って上から降る声…。


マントのフードからはその目が見えない。

けれど、

剣を掴んだその手は、
ゆっくりとチャンミンの身体を引き上げた。


『ユノ…さん……僕……僕っ………』


涙の堪るその瞳…。

そして悲しげに震える小さな身体。


取り上げられた剣…
しかしその剣を掴んだ時と同じ様に、
その手を握ったままで……チャンミンはユノの腕の中に包まれる。



『僕っ…怖かった……怖かった………』


それしか言葉に出来なかった。



ユノが誰かに傷付けられる事も、

ルハンを…あの剣で傷付ける事も………。

本気でルハンを刺す事なんて出来ないくせに、
ユノを傷付けられるのは…チャンミンにとって自分が刺されるのと同じくらい…苦しい……。

あの瞬間、何を想っていたのかさえも思い出せない。


それでも感じていたのは、

怖い……


それだけだった。

無意識に掴んだ剣。

乱れていた呼吸も、

震える身体も、

あの剣が手に触れた瞬間……、
心と身体がバラバラになった様だった。



しかし、
今包まれているユノの体温。

この熱に触れるだけで、
穏やかなになっていくという事だけが鮮明に伝わって来た…。

『チャンミン……大丈夫……大丈夫だから……』

撫でられる背中の熱さの分だけ、

呼吸を取り戻していける……。

伝わる熱の分だけ…涙が溢れ、
零れだす嗚咽さえも止める事は出来なかった……。



『ごめんなさい……ごめっ…んなさい………ユノさん……ごめっ……』

ユノは伏せているチャンミンの頬を両手で包み込み、

自分の視線と絡ませる。



『チャンミン……少し…話しをしようか…』


ユノの優しい声の中で、
チャンミンは視線を下に落とす。

そこには傷付いたルハンの寝顔。

『でもっ……』

そう言ったチャンミンだったが、
顎を持ち上げられ、視線はユノへと戻される。

『ルハンなら大丈夫だ………もうすぐミノも来る。

それに………、



今だけはゆっくり休ませてやれ。


今だけは…穏やかに………』


そう言ってユノもまたルハンへと視線を落とす。

ふたりで見つめたその先、

流れた涙の痕を頬に残したまま、
背負った運命と生かされていると言う現実を夢で覆ったルハン……。


それは穏やかに…そして悲しげな寝顔だった……。






誰も居ない甲板の上。



ユノは見張りの者も下げさせ、

今ここには…ユノとチャンミンだけ。


船体にあたる心地いい波の音……

月が綺麗に海に映し出されるほどに静かな甲板の上で、

ユノとチャンミンはその風に身を委ねる…。

マントのフードを脱いでいたユノの長い髪が風に靡く………。

腰の下まで伸びるその髪は漆黒の闇の中に紛れる程に黒く、

そして、
サラサラと風の動きを映し出す。


フードを脱ぐことは…珍しい。

チャンミンも数回しか見た事ないその姿に、

チャンミンはただ見惚れ、
そして、


今はなにも言葉を紡ぎだせないでいた。


そんな中、

一際大きく響いた波の音。

それが合図だったかのように、

ユノが静かに口を開いた。


『チャンミン……俺は…お前を置いて死んだりしないから。』

『えっ………?』

『俺は…お前を守る為に今を生きている。

お前に救って貰った命を…決して粗末にしたりしない。

たとえ…この命が…想像も出来ない人数のやつらが狙われていたとしても、

俺は決して屈しない。

それが…俺の生きる道。

それが…俺の運命。


ルハンも………同じだろう…。

血を分けた兄弟を守る為に、
あいつは自分の心を殺してまでこの船に乗ったのだろう…。


俺が率いるこの船がいかに危険で、
いかに…あいつにとって憎き相手だったとしても、


ルハンは…その顔に笑顔を咲かせ…そして懸命に尽くしてくれた。

それは俺たちの想像を越えているだろう…。

ひとりで涙を流し、
兄弟を想いながら一人でこうして…夜の空を見上げていたのかもしれない。



けれど、この船でお前に出会った。


心から友と呼べるお前に。


悪魔に売った心で、
お前のその潔い心に触れたあいつは…きっと嬉しかったんだと思う。


お前と居る時のルハンの笑顔は…本物だと思っている。

少なくとも…俺はそう思う。


人間は……人間は誰でも何かを背負って生きている。

どんな小さな命でも、

その命を全うする権利があるんだ。


敵に立ち向かって散るその瞬間も、

誰かの為に…その命を懸けて………。』


ユノはそう言って夜空を見上げた。


この時のチャンミンには、
まだユノがなぜルハンを斬り、
そして、
また救ったのか…分からなかった。



ー俺は死なないー



そう言ったユノさんの心は…何を想っているのだろうか……。

その深い心の中は…どんな想いで溢れているのだろうか……。


ルハンを斬ったユノ…。

その裏では、

ルハンの本当の心を想い空を見上げるユノ……。


どれが本当のユノなのだろうか…。



そして…ルハンはこの先…どうなるのだろうか……。



『ユノ…さん………?』


『ん…?』


『ルハンは…どう…なるの…?』


『ルハンには死んでもらう。』

その言葉に自分の身体が跳ねるのが分かる。


『なら…どうして…救ったのですか…?』

チャンミンの言葉に、

ユノはくるりと向きを変えた。


『ルハンには死んでもらう。

チャンミン……俺を…信じてくれるか…?』


正直…この時のチャンミンにはその意味は分からなかった。

けれど、

ユノが考えている事なら、
自分はそれをただ信じる。

ユノだけを信じる。


チャンミンにはそれしかなかった。


虫の息だったルハンを必死に救う様に命令したユノ。

それがミノの恩返しの為だと言っても、


『死んでもらう』

その意志は決して揺るがない。


それでも僕は信じる。


ユノのその瞳が語り掛ける本当の意味はまだ分からないけれど、

それでも僕に出来る事は、


ユノを信じる事だけ。


そう……それだけなのだ。



『僕はユノさんだけを信じます。

どんな事があっても、

何が起こっても。』



チャンミンは背を向けていたユノの前に立つ。


自分よりも背の高いユノを見上げ、

自分の胸の前に剣を掲げる。


『僕はこの剣に誓います。

僕は…ユノさんだけを信じます。』


そんなチャンミンの姿に、

ユノは思わず両手を伸ばす。


そして、


『チャンミン……決して死ぬな。
夜が明けたら戦が始まる。

決して…決して死ぬでない。

俺は…お前を失うのが怖い……


この世で…唯一の恐れがあるならば、


チャンミン……お前を失う時だ……。』



ユノがその両腕に込めた力はあまりにも強い。


その苦しさの中にも、


チャンミンは幸せを感じていた。


ぎゅっと包まれる熱に、

自分の鼓動が高鳴る。

まるで身体の全てが心臓になったように、

その規則正しい音に、
呼吸さえ奪われるようだった。


『チャンミン………

死ぬなよ………』


頬を掠めるユノの長い髪……。

両手で頬を包まれ、

ユノの唇がチャンミンの額にそっと触れた……。


『お前を失ったら……俺は………』


『ユノ……さん…………』

チャンミンもまた、

ユノの背中に回した腕に力を込めた………。





ユノの唇が触れた額が熱い。


この想いは…なんなのか…


この時のチャンミンにはまだ分からなかったが、


それでもこの熱に今は酔っていたい。


本当はこのままずっと……………。








そしてもうすぐ夜が明ける。



ユノとチャンミンの運命を決める戦が、


今、


始まろうとしていた………………。









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