上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

- comments

非公開コメント

海賊に恋をして 36


そして夜が明けるまであと少し……。

アーチ型の船長室の窓から見る海がいつもと違く感じるのは、
これからの戦いの予兆だろうか……


敵国への海域ぎりぎりまで船が進むと、

ユノは全員を甲板に集めた。


言い様のない緊張感から、
言葉を発する者は誰もいない。


手に馴染んだ武器を手にし、
その目は…戦いに立ち向かう戦士の目…。


それぞれの心にはこの戦の意味と、

大切な人への想いで溢れていたに違いない。


チャンミンはコックの仲間たちと共に、
ここに居る全ての視線を独り占めしているユノの姿を見守る。


マントを深く被り、
ひらひらと揺れる裾が目に入る。



『チャンミン…決して死ぬな……』


そう言って額にキスをしてくれたユノ……。

あの時の感覚が鮮明に蘇り、
チャンミンは右手でそっとそれが触れた部分に手を当てた。


ーユノさんこそ…生きて………ー


長い衣を風になびかせ、
その腰に携えた剣をゆっくりと引き抜くユノ…。


『みなもの……いよいよこの日を迎えた。

ただ一言……


自分の命を守れ。

仲間を…守れ。


そして、


必ず生きて会おう。


俺たちの…この場所で。』


その言葉を合図に、


甲板に居る誰もが、
腹の底から雄叫びを上げる。



『おーーーーーーー!!!!』



まるで自分を奮い立たせるように、
その顔を歪めながらも、
それぞれの剣を高らかにあげる船員たち。


そして、


隣に居る者と抱き合い、
手の平を合わせ、
そして背を叩きあう。


いよいよ始まるんだ……。

いよいよ……戦いの時が………。










剣と剣がかち合う音が響き渡る。

攻め込んできた敵に立ち向かうは前線部隊。
それとは別に敵陣へと向かった部隊はすでに何隻かを制圧していた。

陸陣が白旗を振る姿は航海士が確認し、
その朗報はすぐに船長に伝えられる。

ユノは部隊の最前線で指揮をとり、
自らもその剣を振り下ろす。


流れるような剣はまるで生き物の様だ。

既にマントのフードは脱げ、
長い髪がその動きに合わせるように風になびく。


一体どれくらいの時間が経ったのだろう…。



チャンミンは戦闘部隊ではない事から、
厨房の奥の部屋で待機をしている。

コックたちにはコックの仕事がある。

それとは別に、
傷付いた船員たちの治癒に手を貸し、
湯を沸かしたり、慣れない傷の手当てをした。


深く斬られた傷に手が震え、
溢れる赤い血に目を覆いたくなる。

それでも必死に開くその目に、
チャンミンは無我夢中に声をかけた。



『くそ…骨…やっちまってる!!
チャンミン!!添え木が足りねぇ!!
甲板になら!!

………いや……ダメだ……今はまだあぶねぇかぁ……』


既にこの場も戦場化している。

次々に運ばれる怪我人で溢れ、
どう見ても手が足りない。

慣れない作業にどの船員にも疲労が見え始めている。

それでも必死で生きようとしてる仲間。

必死で助けようとする者たち……。


この時のチャンミンは味わった事のない興奮の中、

『僕、行けます!!
僕が取ってきます!!!』

咄嗟にそう叫んだ。


『ダメだ!!お前は行かせられない!!』


『そんな事、言ってられないでしょ!!
大丈夫です!!僕が行ってきます!!』


そう叫んだと同時に、
チャンミンの足は決して出てはいけないと言われていた扉を開く。


上からは甲高い剣の音と、
男たちの叫び、
そして、
海へと投げ落とされる水音が鈍い音となって伝わってくる。



ドアを開けた瞬間にその音が鮮明に耳に届き、
一瞬…チャンミンは怯んだ。


それでもユノが自分に与えてくれた短剣を手に、
甲板へと一歩足を進める。



添え木は…船尾にたくさんあるはず。


そこまで行ければ…。



思ったよりも乗り込んできた敵陣はまだ少なかった。

それでも戦う男たちの視線から逃れる様に、
チャンミンが船尾につき、添え木を手にした瞬間…、


すっと何かが視線に入った…。

そしてそれと同時に、
頬にあたる冷たい感触………


一瞬で息が止まり身体が硬直した。


視線だけをチラリと向けると、

そこには銀色に光る剣先と、
それを纏う様に付着してる赤い血……

ぽたぽたと甲板に落ちていくその雫が目に入った。



『動くな………』


耳に届いたのは重く響く聞き慣れない声……。


『っつ…!!』


硬直した身体に反し、
小刻みに揺れ始める身体。

それと同時に、
膝をつき手にしていたはずの添え木が、
腕からすり抜けバラバラと落ちていった。


離せなくなった視線の先、
頬に押え付けれている剣先には自分の目が…映っている……。


『ふっ…まだガキじゃねぇか……』


押し付けられている剣で身体の向きを変えられる。


見上げた先には見た事のない顔…。

その額に巻かれた布には敵国の紋章…。

いつかユノさんの部屋の航海図で見たあの紋章……。




『俺の弟…と同じ…年頃か………』

流れるような視線で頭の先からつま先まで、
ゆっくりとその目に見られたかと思った瞬間、



『悪いな………弟の仇っ!!!』


頬に感じた冷たい剣が離れ、

一気に振り上げられた。









視線を逸らす間もなかった………。







殺されるっ!!







ただ…それだけは分かった…。







振り上げられた剣が太陽の光に反射してキラキラと光る。

それは眩しいほどに………。




この瞬間、
チャンミンはそれだけは覚えていた。

その眩しい光だけが…目の奥に残り………

それが…印象的だった。





しかし一向に振り落とされない。


なにかを躊躇う様に小さく震え始めたその長い剣…。



それでも向けられるその目は、
冷たく…憎しみを持った悲しい目だった。






『チャンミン!!』



自分に向けられている剣の奥に、


あの人の声が聞こえた。





そして、


それと同時に、


空中からふわり降りて来た黒い影。



自分の前に立ちはだかるその背中が、


自分に向けられていたキラキラと光る剣を遮る。




『こいつだけは誰にも傷付けさせない。』



甲板を這う様ほどの低い声が、


チャンミンの前で静かに響き渡った………。






ランキングに参加しています。
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ 二次BL小説へ
にほんブログ村
関連記事
スポンサーサイト

1 comments

非公開コメント

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。