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海賊に恋をして 37


『こいつに…手を出すな………』


チャンミンの前で這う低い声…。

遠くに聞こえる剣がかち合う音が更に遠のくように感じるこの瞬間、

チャンミンの視線はユノの大きな背中に向けられていた。


さらさらと流れる長い髪。

風に揺れるそのマントと漆黒の髪は、
チャンミンの身体を優しく包み込んでいた。


しかしその長い剣は、
確実に相手の喉元に剣先まであと数ミリ……。

鋭い眼光は…その目を捉えて離さない。



『チョ……チョン…ユンホ……』


微動だ出来ないその身体は、
剣を振り上げたまま動く事も出来ず、
ようやく発した言葉が…ユノの名………。



『こいつを傷付ける事は…お前の死を意味する…。


それを分かっての事だろうな……シウミン……』



『なっ…!!何故…俺の名を……』


シウミンの剣がだらりと落ちる。


『シウミン……

お前がルハンの…兄だな……』


ユノの左腕が、
シウミンの胸倉を掴み一気に引き寄せる。


『っつ!!』


『シウミン…お前たちに何があろうとも、
こいつだけは傷付けさせない。
そして、

残念だったな……お前の弟は…死んだよ……』


『ルっ……ルハン………』


ギラギラと燃えるように見据えていた瞳……。


その瞳から、
色が消えるのがわかった…

そしてそこには大粒の雫が揺れている。

零れ落ちんばかりの潤いを溜めたその瞳が、

大切なものの名を呼んだ瞬間に閉じられ、
その頬を伝う。


『ルハンを殺したお前たちをっ……許さない……

お前の首を……必ず……取ってやる…………』


胸倉を捻りあげられたユノの腕に、
シウミンの剣先が向けられる。


充血しているその瞳からは、
止まる事を忘れた様にハラハラと涙が零れる。


ユノはそんなシウミンの瞳から目を逸らすことなく、


『こいつを傷付けるくらいなら、
何度でも俺を斬るがいい。

それが…お前に出来るならなっ!!』



そう言いながらユノは、
シウミンの腹に剣の柄を強く押し込んだ。


『うっ………』

小さなうめき声と共に、
ユノの奥に僅かに見えたシウミンの身体がだらりと崩れ落ちる。


手にしていた剣が甲板に落ち、
甲高い音を響かせる。



『チャンミン…怪我はないか……?』



自分の名を呼ぶ声に我に返る。


『あっ…はい。

ユノさん…僕……』


『怪我がないなら…それでいい。』


『ごめっ……ここには来ちゃいけないって…言われて…たのに……』


『チャンミン、陸軍はすでに制圧を終えた。
今日の戦いはもうすぐ終わる。
残りは明日…。
あと少しの辛抱だ……』

『はい……』


『ユノっ…さん……その人……ルハンの……』



ようやく自力で立ち上がる事の出来たチャンミンは、
ユノの身体にその身を預け気を失っているシウミンの顔を見つめた。




『チャンミン…。』


ユノはゆっくりと振り返り、
チャンミンが歩ける事を確認すると、
気を失っているシウミンの身体を軽々と肩に担ぎ、


『チャンミン…ついてこい……』



そう言って歩き出した。


チャンミンはまだ恐怖で縺れる足のまま、
ユノの背中を追いかけた。







向かった先は…船長室…。


今朝早くに陸へと向かっていたミノの姿がそこにはあった。


『ユノ様、ただいま戻りました。』


『ミノ、ご苦労だったな。
こいつを頼む。』


『はっ!』

ユノは担いでいたシウミンの身体をミノに預けると、
ミノもまた軽々とその身を担ぎ、
奥の部屋へと入って行った。


そのドアが閉まる音が響くと同時に、


くるりと振り返り、
その場に立っていたチャンミンの身体をきつく抱き寄せた。



『チャンミン……』


あまりに突然の事で、
チャンミンはされるがまま……


『ユノっ…さん…?』


『良かった…お前になにかあったら俺は……』


ただでさえキツイその腕が、
更にくい込むようだ。


右腕はしっかりとチャンミンの腰を抱え込み、
左手は…チャンミンの後頭部を引き寄せ、
あまりに強い力に息さえも苦しくなるようで……。


『ユノさん…ごめんなさい……』


そう小さく言いながら、
チャンミンもまたその大きな背中に両腕を回した。


『怖い思いをさせたな……』


『いいえ……』


『こんな事…お前には経験させたくないのに……』

『ううん……僕が選んだ…道だから……』


ユノはその言葉に大きく息を吐いて、
もう一度その華奢な身体を引き寄せた。




『ユっ……ユノさん………?』



『……………』


少しだけ汗の匂いと血の匂いがするユノの胸に包まれながら、
チャンミンはさっきの人の事を思い出す。


『ユノさん……さっきの人………』


その言葉にユノの腕の力がゆっくりと解かれる。

ようやく自由になった身で、
チャンミンはユノの右腕に掴まりながら恐る恐る聞いてみる。


それと同時に、

さっきのドアが再び開かれる。



『ミノ…』


『ユノ様、また気を失っていますが、
もうすぐ…目が醒めます。


どう……なさいますか…?』



『敵軍はすでに引き上げた。

だが、また明朝…攻めて来るであろう。

その前にかたを付ける……。』


『はっ!!』



『チャンミン…少しだけミノとここに居ろ。
俺は甲板に戻る。
いいな、ここから出るな。』


『……はい。』






しばらくするとユノが船長室に戻り、

先ほどまでの戦いが嘘の様に静まり返る…。


今日だけでいったいどれほどの人が傷付いたのだろう……。


いったい…どれほどの哀しみが…あっただろう……


それを憶えている陽はすでに落ち、

全てを包み込むような月の淡い光だけが、

蒼い海へとその姿を映し出している……。




目の前には目を醒ましたシウミンの姿。

後ろ手に両手を縛られ、床へと転がっている。

その口には布が巻かれており、
ところどころには……赤い血………。



『何度も舌を噛み切ろうとするものですから…仕方なく…。』


ミノが小さくそう言った。


ユノはその顔元に歩み寄り、
そっと腰を落とした。


『シウミン…お前は死んではならぬ。』


『うーーーうーーー!!!』


言葉は発する事を阻止されているシウミンは、

その身体を必死に揺らしながら、
ユノを睨み上げる。

床に何度も擦れる頬からはうっすらと血が浮かぶ。


『シウミン……お前は敵国の人間………

しかし……その身体に流れる血は……俺たちと同じ……』



『っつ!!!』


『お前たち兄弟に何があったか……それは分からない…。

けれど、

お前たち兄弟が祖国を捨てていない事は…知ってる……。』



バタバタとも藻掻いていた身体がピタリと止まる。



『シウミン……生きるのだ。


お前の大切な…兄弟と共に…………。』


その瞬間、

シウミンの瞳がぎゅっと閉じられ、
大粒の涙が床を濡らした。


ユノは口を抑えていた布をゆっくりと外した。


『チョン…ユンホ………

一体…何を考えている……

俺は……俺は…敵国に心を売った人間。

お前の首だけを……

お前を殺す事が…俺の………』


『シウミン……
一族で敵国に囚われ、
目の前で残酷に殺された両親の事は…知っている……。
そして、
俺の首を取る代わりに兄弟の命だけは救ってやると言われた事も……。


だからこそ、

ルハンもお前も…こうして祖国と戦っている事も……。


一番下の兄弟はまだ…敵国に囚われているのであろう…?』


『あいつは…あいつは……国王の……国王にっ!!』


涙と共にシウミンの悲しい叫びが響くと同時に、


ユノはミノに目配せをした。


それに小さく頷いたミノは、

麻袋を被せてあった大きな荷物に手を掛ける。

それはミノが先ほど担いできたもの…。


それがゆっくりと開けられると同時に、




『レっ……レイ………』




シウミンの口から嗚咽が零れた。



『シウミン…私は敵国からこの国を守ると同時に、

国の民を守ると言う命を国王から授かっている。


但し…一度は裏切ったお前たちをそう簡単には…逃がしてやれない…。


どんな理由があったにせよ…、
この国の民は決してお前たちを許さないであろう…。

少なからず、
祖国の人間を斬り、
裏切って来た事実は…決して消えない。

けれど…俺はお前たち兄弟を信じようと思う…。



逃げるのだシウミン……


兄弟と共に、
敵国からも…この国からも……


ルハンと共に……。』




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