FC2ブログ

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

- comments

非公開コメント

海賊に恋をして 38


『行くのだ……兄弟を連れて……』

ユノさんの声が…船長室の中に響く……。

それはいつもの様に重く…それでも……この場所に居る誰の心にも…しっかりと届く音になって伝わる。


向けられている言葉はチャンミンに対して向けられている訳ではないのに、

なぜだろうか……その言葉にチャンミンは胸の奥が熱くなるのを感じた。


視線の先には、


ユノを見上げて震えるシウミン………


目をぎゅっと閉じて、
ただただ震えるその身体に、


チャンミンは静かに歩み寄る。




そしてその手に触れ、



『シウミンさん……ルハンは生きています……。

この奥の部屋で……ちゃんと生きています………。

ユノさんが…ユノさんが……』


その先は言えなかった……。


ただ伝えたいのは……、


ユノさんはとても………温かい人だってこと…。


この船の船長であり、
国を…任される偽りの海賊……。


その名を残忍で…冷酷で残酷であるとその姿で轟かせ、

敵に氷の剣士と呼ばれるこの人が、


本当は誰よりも心が温かくて…人間臭い事を……。



でもこの先は口にしてはいけない…


そんな気がしたんだ。



『うぅっ………うっ………』


床に伏せるように泣きだしたシウミンの背中を優しく撫でるチャンミンもまた、

その姿を見下ろすその人の心の内に……涙を流した。



ユノさん……


あなたはやっぱり………すごいって思うよ…………



今…分かったんだ……


船員の前でルハンを残酷にも斬ったあなたの心も、


こうしてシウミンをこの船に引き寄せた事も、


そして、


ミノに命令を下し、

敵国の王に囚われているレイを密に救った事も…、



全てはこの兄弟を救う為……。



自分に憎しみの剣を向けるこの兄が、

命を懸けても守りたかった2つの命………


それを誰よりも……分かっていたであろうこの船長を、


チャンミンは心から誇りに思う。


民を守る為に強くなる必要があって、


民を守る為に………悪になる。


感情だけで動くような弱い頭(かしら)ではなく、


時に冷酷で、

時に……己の心に意に反してでも、



凛とあるべきだと………。





『シウミン……夜が明ける前に、
お前たちを流す。

ただし…死者としてだ。


ミノがお前たちを隠した樽を縄でひく。


陸についたら、

振り返らずに行くのだ。


決して振り返る事なく、

東へと………。


その先はお前たちで開け。


そして、忘れるな。



お前たちはどこで生きようが……、


我が国の民であることを………。』



すでに隠す事を忘れた嗚咽が悲しく響く………。



それぞれの胸のうちは……まったく違う……。

それでも、

この場に交差する思いは……ただ一つ…………。



命を懸けても守りたいもの………



それを守り抜く男たちの魂………。



その渦の中、


チャンミンは窓際に立ってその風を全身で受けるその人の背中をじっと見つめていた。




その背が……あまりにも大きくて、


悲しそうに見えて………。







漆黒の闇に、
淡い色が付きはじめた頃……、


シウミン、レイ、そして傷付いたルハンはその身を寄せ合って樽の中に身をひそめた。


何度も何度もその名を呼び合い、
抱き合った3人………


それぞれがそれぞれの想いの中、
その手を取り合う日をどんなに待った事だろう……。


名を呼ぶ以外、
3人は言葉を紡がなかった。

その頬に触れ、
その熱を感じ、
ただただ涙を流した。


その3人が今……ミノの手を借り、

新しい世界へと。


祖国を離れ、

敵から逃れ、


それでも生きたいと望んだ3つの魂………。



本来は死者を入れ、
海へ流すための樽の中………。


まだ淡いながらにも、
強い命の光を纏ったその中で、


シウミンはミノを見上げて一言だけ言った。


『ありがとう………と伝えてくれ。

ルハンの為に…高価な薬を……ありがとう……と。

そして……弟たちを救ってくれて……。


なによりも……、

これからもこの国の民として生きる未来を……ありがとう…と……。』



『あぁ……。

必ず伝える。

では……行くぞ……』


数人の船員たちが行き交う甲板の上。

誰もが死者を弔う儀式と思う中、


その中に納まった3つの命に蓋がされる寸前、



『ルハン……元気でね……』


シウミンに抱きかかえられているルハンに向かってチャンミンが言う。


それに応える様に、

『チャンミン……俺たち………俺たち………』



『友達だろ…?ルハン………』


突き出した拳。



まだ傷の癒えないルハンは、

その拳に弱々しく拳を突き合せた……。


『ありがとう……チャンミン………

君に…出会えて…よかった………』



しっかりと蓋がされた大きな樽が海へと放たれた。


しかし、

そこには縄が巻かれていて、

陸戦へ向かうミノの小さな船に繋がれていた。


それは密に……

それは……死者を海に帰す儀式のままに………。


なにも知らない船員たちは、

その樽に向かって手を合わせる。

敵であってもそうする様にと常に言っていたユノの言いつけ通りに……。









『ユノさん……ルハンたち……行きましたよ………』


昨夜と同じ様に船長室のアーチ形の窓の前に立つその人………。


風に身を任せ、


ルハンたちが流された方向とは別の方角に目を向けるその人…。



『……………チャンミン…………


怖い思いをさせて…悪かったな………』


振り返る事なく呟いたユノ……。


風になびくその黒髪………


その姿があまりにも儚げで………。




『いえ………

ユノさんがルハンを斬った事には…ちゃんと理由があったのに、

僕の方こそ……ユノさんに酷い事…言っちゃって………。』


『俺はな…チャンミン…、

無駄にしていい命など無いと思っている。

けれど…時代には逆らえぬ。

時に心を悪に売ってでも斬らねばならぬ時はある………

けれど……、

毎日……この海の上に陽が昇る様に、

繰り返す日々の果てに、

いつか……無駄にこの剣を振り上げなくても良い日が来ると信じている。』


『………はい。』


『出来る事なら……その未来に……』



ゆっくりと振り返るユノ……。


『その未来に……お前と行きたいものだな………』


昇った朝陽に照らされたその姿…………


逆光に遮られ、

その表情は見えない……。


それでもその声はあまりにも低く…それでいて強い響きでチャンミンの心の中に入ってくる……。



『ユノさん……僕も行きたい………

ユノさんと一緒に……そんな未来へ…………』



思わず飛び込んだユノの腕の中……。


この人と…行きたい………

この人となら…行ける気がする………


チャンミンが想像も出来ない程の苦しみと悲しみ、

そして、

全ての愛をも背負うこの人と一緒なら、


きっと……どこにだって…………。




『チャンミン……お前と行ってみたいよ………

そんな未来へ……』


囁くようなその声と共に、

ユノの腕がしっかりとチャンミンを受け止める。



この熱が………あまりにも優しくて、


そして、

その腕の中でチャンミンの心の中に芽生えた気持ち………


いや……、


本当は気が付いていたのかもしれない……


ユノに出会ったあの日から、

ずっとずっと心のずっとずっと深い場所に居た感情が……。





回された腕に目を閉じ、


聞こえる波の音と、


互いの鼓動が響く中、


チャンミンはそっと言葉を紡いだ……



『ユノさん……


僕は……ユノさんと一緒に行きたい…。


ユノさんじゃなきゃ……いや……だ…………。


僕は……ユノさんを……


愛しています…………』





ランキングに参加しています。
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ 二次BL小説へ
にほんブログ村
関連記事
スポンサーサイト

2 comments

非公開コメント

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。