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海賊に恋をして 45



『……ユノ…さん………?』


部屋のドアを開けると、
ユノはアーチ型の窓際に立っていた。



その後姿………。

ようやく出て来た月明かり……

それを浴びながら、
それでもその背中は…あまりにも……儚かった………。

先ほどの戦いで切れてしまったあの長い髪は…ずいぶんと短くなってしまい、
乱雑に斬られたせいで不揃いだ。

怪我をしている腕もそのままで、
どのくらいそうしていたのだろう……。

ぴくりとも動かないその後姿。

それはチャンミンが声を掛けるのを戸惑う程に、
目の前に立っているユノは…まるで一枚の絵の様にその場に立っているだけであった……。



聞こえるのは…僅かに開いている窓から入る波の音……。

船体に打ち寄せる波の音が、
心地いいリズムとなって耳に届くのに、

この部屋の中では…悲しいメロディーとなって響き渡る……。



『ユノ…さん………』

チャンミンが両手で持っていたカップと皿の音がカチャリと小さく響く。

ユノは大きくひとつ息を吐いたが、
その先の言葉もなく、
再び波音だけがふたりの間を流れた。


チャンミンは部屋の中に入る事も出来ず、
ただ自分の心の奥にズキン…と感じる重い鼓動のままでその場に立ち尽くす。


『チャン……ミン……』

一度も後ろを振り向く事なくその名を呼ばれ、
チャンミンは何故が目の奥が熱くなる。

その声があまりにも弱々しく、
波の音にも負けそうで…。



今日あった事……。


それはチャンミンにとっても辛い出来事ばかりだった。


せっかくユノと心を通わせ、
その想いを…口にして伝える事が出来た。

そしてユノが伝えてくれた想いに……その心を焦がし、
生きて来た中で一番幸せと感じたあの時間…


それがまるで夢であったかのように、
今日はあまりにも辛い事が続いた…。


隠し部屋で敵国の人間に羽交い締めにされ、
この身体を這う手の冷たさに涙が溢れて仕方なかった…。


怖くて…怖くて……

このまま自分は殺されてしまうんだ…と、何度絶望しただろう。

それでも諦めたくなかった。

諦めるわけにはいかなかった。

それは、


ユノが居るから……

一人じゃないから………


どんなに辛い事があっても、
自分はユノの隣に居ると決めた。

どんなに絶望しても、
自分には……ユノが居る……

それだけで自分の生きる価値があるのだから…と、
チャンミンはその命を繋ごうと必死に立ち向かった。

それは自分でも驚くほどに、
必死に………。


自分の全てはユノ……。



『ユノさん……』



チャンミンはそっとその背中に近付く。


なにを言葉にして伝えたらいいのか…分からない。

その背中に…なにを言ったら良いのか…まだ分からない……。

それでも…なんの言葉も持たないまま、
チャンミンはユノの傍に近寄った。



きっとユノは今…自分たちを守って斬られたミノを想っているのだろう…。

まだミノの血の付いた服のまま立っているその人から香る血の…匂い…。

見上げる月に見るのは……きっと血の気を失っていたあのミノだろう……。


ユノにとってミノは……大切な人…。


自分なんかが立ち入る事が出来ない絆で結ばれてきた人…。


その人は…自分を守って…斬られてしまった…。

この船の船長として、
ミノが寄せる自分への想いを知る者として……今その心を……。

戦いに勝利したキャプテンとしてではなく、

一人の人間としてその心を………。



寄せる波の音が……無駄に心に響いて大きな音となって聞こえてくる。


なにを言っていいのか分からないまま…、
チャンミンは手にしていたカップをテーブルにそっと置き、
その背中に手を伸ばした。



指先に触れたユノの服…。


手の平に感じるユノの……身体……


そしてチャンミンは、


ゆっくりと両腕をユノの腰に回したのだ……。





だって……


だって……ちゃんと掴まえていないと…ユノが今にも消えそうだったから……。



『ユノさん…ユノ…さんっ……』


絶え間なくその名を呼ぶ。

愛しいその人の名を…必死に呼ぶチャンミン……。




『チャンミン…すまない……』


低く響く声が、
押し付けた額からも伝わってくる。



なにを…謝るの……?
どうして…そんなに………


ユノの腹部に回した手にぎゅっと力を込める。


その手に…そっと重ねられた手……


それはあまりにも冷たかったけれど、
それでも自分より大きな手が包む自分の手は…確かにその熱を感じる事が出来て。


何も話してないけれど、
何も…ユノさんから言葉は無いけれど、

今はこのまま……重ねた手からそれぞれの想いが伝わればいいと願う。

耳に聞こえる波の音は、
いつしか鼓動の音色に変わって、
それがどちらのものかなんて分からないけれど、


その音は……あまりにも…悲しかった…。



淡い月明かりに陰が落ちる。

流れる雲が重なったその月は、
まるで今の僕たちの様で、

うっすらと暗くなったその部屋の中で、
ユノさんの言葉がゆっくりと流れた。




『チャンミン……俺は…なんの為に生きてる……?

俺は……なんの為に……生かされるのだ………?』



その言葉に、
重ねた手の震えがチャンミンの心にまで響いて。




まだ見えぬその表情は…どんな顏をしてるの……?

そんな言葉を紡ぐあなたの心は…今…どこに居るの……?



チャンミンはユノの背中に押し付けた額と、
回したその腕にぐっと力を込める。

隙間なく抱き付くその背中。

ユノに自分の全てで伝えたいのは……、

今…僕があなたに伝えたいのは………



『ユノさんは今…僕の傍で生きています…。

ちゃんと…聞こえます…ユノさんの鼓動が…ちゃんと……

僕は……僕は……それだけで…生きていけます………

それだけで……僕も……生かされます……

ユノさんの命は…鼓動は……僕の…僕のっ……』


その先はユノさんの唇で塞がれる。

強く抱きしめた腕の力などあっと言う間に解かれ、
くるりと向きを変えたユノに包まれる身体。


この部屋にあるのは…雲に隠れた月明かりだけ。


まだ見えぬその表情だけど、

それでも必死に自分の唇に触れる熱は…あまりにも熱くて…熱すぎて……




荒々しく抱き込まれたチャンミンだったが、
ようやく離れた唇にひんやりとした空気が触れる瞬間、
その熱を失いたくなくて、
自分からもその首筋に手を回してユノを感じようと必死だった。

言葉は無いけれど、

唇から伝わる熱が…今の僕たちには絶対的に必要で…、
絶対的な…想いの証しで…。



ユノはチャンミンの額にその額をつけ、
両手で頬を包みながら囁く。


『俺は…愛されてるのだろうか……?

俺は…愛される資格が…あるのだろうか……?

チャンミン……俺は……』



今にも消えそうな声…

まだ見えぬその表情……。

重なる熱に想いをどんなに込めても、
不安げに呟くその心……。



僕は……

僕は………



『ユノさん……僕が傍に居るから……

僕が……ユノさんを愛してるから……

だから……泣かないで………』


その頬に流れる涙を……全部…僕にください………。





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