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海賊に恋をして 47


穏やかな朝……

燦々と降り注ぐ太陽の陽の光は、
昨夜の淡い月明かりとは正反対に深い眠りにつくユノとチャンミンを暗闇から引き戻す。


ユノを抱きかかえたまま眠りについたチャンミンは、
その光に誘われる様にゆっくりと覚醒していく。

何度か繰り返した瞬きの奥に、
自分の腕の中で眠るユノの穏やかな寝顔………

眩し過ぎるほどの光に、
その額にも…その頬にも小さな傷がある事が鮮明に浮かんでいて、
チャンミンはその額に…そっとキスを落とす。

この人はこの数日…どれほどの想いの中で息をしてきただろうか…。


どれほどの想いを背負って…戦い抜いて来たのだろうか……。


常に凛とした態度で。

常にその意識を切らす事無く立っていたのだろうか……。


あまりにも穏やか過ぎるその寝顔に、
また目の奥が熱くなる。


だめだ……

今泣いてしまったら、
きっと…この人を起こしてしまう…。

震える胸と漏れてしまう嗚咽…。

その先で、
この綺麗な頬に…涙を落とす事など出来ない。

チャンミンは抱えていたその人の頭を更にぎゅっと抱え込んだ。


もう少しだけこのままで……。


もう少しだけ…この人を…僕だけの中で……





しばらくそうしていたが、
甲板から響き始めた船員の声が耳に届き、
チャンミンは自分の立場を思い出す。

今はこうして大切な人の傍に居たいと思うのだが、

この船での自分の役割をしっかりと全うしなければならない。


戦う事は出来なくても、
みんなの一日のはじまりにしっかりと栄養のあるものを作る事が自分の今の立場なのだ。


ユノを離したく気持ちと、

今、自分がすべき事…。


チャンミンは腕の中にある愛しい熱を名残惜しそうにそっと手離そうとした瞬間、


『行くな。』


胸元で響く声に驚いて視線を落とすと、

そこには自分を見上げる愛しい人の眼差し……。


『ユノさん……』


『チャンミン……』

『あっ…あの……ごめんなさい…。
起こしてしまいましたか……?』

『いや…起きてたよ…ずいぶん前から……』

そう言って下から伸びて来た手……。


その手が自分の頬へと届き、
そこから伝わる熱が頬から身体全体にゆっくりとゆっくりと伝わって行くようだ……。

『あまりにも…温かくて…。』

そう言って小さく微笑む人……。


『ユノさん…身体…痛みませんか…?』

添えられた手に頭を預けながらチャンミンも優しげにユノを見下ろす。


『大丈夫…。チャンミンがこうして居てくれたから……。
こんなにも穏やかな朝は……ひさしぶりだ……』


『僕はなにも……

ユノさん…お腹…空きませんか…?

僕、何か作ってきます。』


そう言って身体を少しだけ動かすと、


『だめだ。』


『ユノさん……?』


『腹なんて減ってねぇ…
それより……もう少しだけ………』


『…はい………』


再び目を閉じるユノを見届けながら、

チャンミンはアーチ型の窓の先の空を見上げる。


今日も…明日も明後日も……こんな朝で居て欲しい……


こうして…この人の熱をいつでもそばに………。





太陽が一番高い場所で輝くころ、

ユノは甲板に降り、船員たちを労う。


『戦いは終わった。
みなの想いがひとつになり、我々は勝利した。

一部の監視以外、
一度陸に戻る。

それまでは残された自分の仕事を全うする様に。

それ以外は陸につくまでは自由にしてよい。

負傷したものの手当てを怠らぬよう。


胸を張れ。

それだけの事をお前たちはしたのだ。





誇りに思う。


皆と戦えたこの日々を。



さぁ、


帰るぞ!我々の国に!!』



風に靡く髪は…短くなってしまったけれど、

そう言って船員たちに言葉を贈るユノの姿は紛れもなくこの船のトップで、
この人以外…誰が統率出来るであろうか…。


ここに立つ船員たちの眼差しを一手に受けるこの人は、

間違いなく…戦う戦士の長だ。



その声。
その背中。


誰もが尊敬し、
その姿に見惚れる中、


あの人が自分の腕の中で眠っていたなどとまるで夢の様に、


大勢の人の前で凛としているユノの姿に、

愛しさが溢れてしょうがなかった。






それから甲板には賑やかな声が響き、

それぞれが想い想いに時を過ごした。


甲板に寝ころび空を仰ぐ者。

昼間から酒を飲む者。

陸に居る家族を思い、
その身体に風を受けている者………。


涙を堪え切れぬもの……。


それぞれがそれぞれの胸に想う人への愛で溢れていた。






チャンミンもまたそんな甲板の片隅で今日までの事を思い返していた。


この船に乗ってから今日まで…自分の人生は大きく変わった。

たくさんの出来事の中で、
自分の心がどんどん変わっていき、

それでも今…ここに立っている自分の心は…こんなにも…穏やかで温かい……。

その瞬間苦しかった事も、

今は…違う。


ここに立つ自分は今……今…………。



『チャンミン、食えよ。』


突然視界に入って来たのは、

真っ赤なリンゴで。


『お前、ろくに食ってねぇだろ?

くすねて来た。』


そう言って、

差し出したリンゴの半分を頬ばりながら、
にこりと笑う厨房の仲間。


『なぁ…チャンミン。ルハンのやつも天国で笑ってんのかなぁ……

ちょっとだけ聞いた。あいつ…兄弟…居たんだってな……。』



そう言いながらむしゃむしゃとリンゴを齧りながら空を見上げる。


ルハン……

そうか…ルハンの事はユノとミノと自分だけが知っている。

裏切り者だと皆の前でユノに斬られたルハンだが、
本当はユノが生かした…。


そして、


その兄弟たちと共に逃がした。

ここからは死者としてここから送り出されたルハン………。

いくら裏切り者だと言っても、
ルハンは……自分達にとっては仲間であり、
寝食を共にした…友だった。

この戦いで亡くした命もある。

この戦いで失くしたものもある。


賑やかに響く声の奥で忘れてはいけないものはちゃんとあって、
その人の分も、
その人の想いも決して忘れてはいけない。

『うん…きっと…笑ってる………きっとね…。

僕たちの未来も分からないけれど、

またこうして…一緒にリンゴ…食べたいね。』


『あぁ…』


いつのまにか聴こえはじめた歌声。


甲板の上に響く声があまりにも心地良くて、

チャンミンは白波一つ立たない海を見下ろしながら、


甘酸っぱいリンゴを口いっぱいに頬張った。







『チャンミン。船長が呼んでるぞ。』


夕食の後片付けも済み、
朝食の下拵えをと思っていた時だった。


料理長にそう言われ、
チャンミンは急いでエプロンを外す。


厨房から出ると、
頬にあたる風の冷たさに一瞬驚いた。

チャンミンはもう一度厨房に戻ると、
温かな紅茶を淹れた。


『ユノさん…チャンミンです。』

『入れ。』

『今夜は急に寒くなりましたね。
ユノさん、紅茶、淹れてきました。』


『すまない。

チャンミン…そこに座りなさい。』

『はい…。』


向かい合って座るソファ。

船長室は淡い照明がいくつも灯されていて、
昨日とは違い、
互いの顔もしっかりと分かる。

なんだかそれが恥ずかしくなり、

『ユノさん、お砂糖…多めでしたよねっ…あっ……』


あまりの恥ずかしさに慌ててカップに手を添えた瞬間、


『チャンミン…聞いてほしいんだ……』


突然掴まれた手首。


『えっ……』


掬った砂糖がティースプーンから零れ落ちる……。


『この船はもうすぐ…陸に着く……

その前に……

その前に俺の事……お前に全部…聞いてほしい………


お前だけに……聞いてほしいんだ………』


そう言ったユノさんの目は……あまりにも悲しげだった……。




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