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海賊に恋をして 52


それから何日かして船が港に着いた。

僕とユノさんが今日限りで船を降りる事は…誰にも伝えなかった。

僕はともかく、
船長であるユノさんが船を降りるという事は……とても大変な事であり、
言葉を言い換えれば、
この船は……もう無くなる事と一緒……。

必然に皆も居場所を失う…と言う事になってしまう。

そんな大事な事を伝えないままここに来たのは、
混乱を避ける為でもあったが、
ユノさんにはユノさんの考えがあったようで……。

その心内は僕には分からなかったが、
ただ一つ言えるのは……ユノさんが相当な覚悟を持ってこの船を降りると言う事だけ。




親兄弟の様に共にしてきたこの船上……。



しかしユノの本当の姿は…この国の王子………。

父は国の王。

そして、血を分けた兄は……ユノの命を奪おうと企んでいる……。

この人が背負うモノは…あまりにも……悲しい運命……。

兄により王家を追われ、
密に海賊として生きなければならなかったこの人の想いを…僕はどれだけ分かってあげられるだろうか…。

時折ここで見せたその笑顔は、作られたものじゃない……。

ここに居る全ての人間を信じ、
その傷付いた心を癒し、
ユノが唯一…心を解放で来たこの場所……。

ユノが命懸け守って来たこの場所を失ってでも進まなければならない道が…今…開こうとしている。

ユノの寂しさは計り知れないが、
その覚悟だけは……少しだけだけど…理解したいとチャンミンは思っていた。



碇が下ろされる瞬間、
ユノは船員全員を甲板に集合させた。



『皆の者…よく聞いてくれ。』

静かに語りだしたその後ろで、
チャンミンはその背をしっかりと見つめた。


この人が今から話す言葉に船員たちはきっと…戸惑うだろう…。


反対する者も…居るだろう…。


しかし、

その多くを語る事は出来ない。

きっと……非難を受ける……そう思ったからこそ、僕はその背をしっかりと見つめたいと思ったんだ。

それがチャンミンに出来るたった一つの事だから……。

愛する人のその想いを……しっかりと見届けるだけなのだ……。




『俺は今日で…この船を降りる………』

海鳥の声が頭上から聞こえる甲板の上に、
ユノの声が鳴り響いた。


その言葉に、
船員たちは何も発することなくユノを見つめる。


船に打ち付ける波の音……。

陸から聞こえる威勢のいい声……。

視界に入る青い空と蒼い海は…どこまでも果てしなく続いている……。

チャンミンはぎゅっと目を閉じた。



『せっ…船長…降りるって……。
しばらく陸での作業ですか…?』

沈黙を破り、
海鳥の声が途切れた一瞬で口を開いたのは……一番若い航海士…だった……。

『違う……。』

『違うって……それってどういう……』

『俺は……今日限りで船を……この船を捨てるんだ……』

『なっ!!』

『俺は…もうこの船の船長ではなくなる。
別の……別の目的の為に……この船を捨てる。
それだけだ。』

ユノの言葉にどよめきが起きる。

『なんでだよ!!』
『捨てるって…俺たちはどうなるんだ!!』
『船長!!それは笑えない冗談だっ!!』
『俺たちを裏切るってのか?ここまで……ここまであんたを信じて付いてきたんだ!!』
『俺はこの船の為に家族まで失ったんだ!!』
『俺たちを……仲間を捨てるってのか!!』


皆の言葉が刃の様になって突き刺さる。

ユノは…何も言わず、
その言葉の全てを受け止める…。

微動だせず……ただ……その身一つで……。


船を降りる理由を知っているチャンミンはその一言一言に身体が竦み、
投げつけられる言葉の分だけ…身体が小さく跳ねた。

でも…何も言えない……。

何も言っては……いけない。


『すまない……。

でも…もう決めた事だ。

皆の者には…それ相当の報酬を渡す。

今日で……今日限りで俺たちの航海は……戦いは…終わりだ。』


『ふざけるな!!』


今まで船長に対して反抗をしてこなかったものまでユノに向かって暴言を吐き、
腰に携えていた剣を放り投げた。


『あんたを信じてたんだ……。
あんたなら…俺たちを見捨てない。
俺を……俺を……家族だって言ってくれたじゃないか!!』

『……すまない……』

『すなまい……?それだけの繋がりだったって言うのかよ!!
一緒に戦ってここまで来た。
どんな事があってもあんただから信じて来たんだ。
それを……それを捨てる……?
たったそれだけで、俺たちを見捨てるってのかよ!!』

ユノの手の平がぐっと握られた。

その指先はあまりに力を入れ過ぎたようで白く変わっている。

それでもユノは言葉を発することなく、
その言葉を受け止めている。

『船長……俺にはここしかないんだ………
俺にはもう……あんたや…ここに居るみんなしかいねぇんだ………。
ここが無くなったら……
ここが無くなったら……俺はもう生きる意味なんてねぇんだよぉ………』


『俺は……俺はっ……』

それでも何も言葉は…でない…。


その代わりに、

ユノはその甲板へと……片膝をつけ…頭(こうべ)を垂れたのだ………。


『せっ……船長………』


この国で最高の剣士……。

その名を聞けば、
海に生きる人間の誰もが慄く……。

そんな最強で……誰よりも凛としているユノが………その甲板に片膝を……ついたのだ。


『俺は最低の人間だ。

でも……俺が進む道を……信じてくれ。

……決して忘れない。

この船でお前たちに会えた事を……。

お前たちと……酒を酌み交わした事を……。

この契は……決して…忘れない。

俺にとって……お前たちは……家族だ…。


だからこそ…俺を信じて欲しい……。

信じて……欲しい………。

そして…皆にも……生きて欲しい…。

自分が信じる道を………。』


ユノの行動に…その場にいる誰もが息を飲んだ。




この先にあるのは…別れ…………。

最高の家族たちとの…………別れ。

次の道へと進む為の……永遠の別れなのだ。


『すまない………。』



風に揺れる髪が………あまりにも儚かった。




『………船長……止めてくれ…。止めてくれ………。』


静寂を破ったのは………、


料理長……だった。


『船長……なにか…理由があるんだろ………?』

『………』

『船長が俺たちを捨てるなんて…ありえねーよ……。
あんたに限って…そんな事…する訳ない。』

『…………』

『俺たちにも言えない事が…あるんだろ……。
俺たちには言えない……あんたの道が……あるんだろ………?』


そう言いながら、
料理長はユノの右腕を掴み、
その身体を引き上げた。


ユノはまだ顔を伏せている………。


『船長……俺はな……俺たちはな…あんただから今まで付いてきたんだ。
あんたが、俺たちを家族だって言ってくれたから…こうしてあんたに付いてきたんだ。
それは言葉だけじゃねぇ……。あんたはいつだって俺たちを守ってくれた。
誰一人…見捨てねーで…。

そんなあんたがそう言うには…理由がある。

なら……俺はあんたを信じる。

あんたが進む道ってのを……見送るよ………。』


『お前……』


『ここを失うのは…正直…辛い。

ここが俺たちの家だったからな。

でも…きっとあんたなら、その目的ってのを果たして、
俺たちを迎えに来てくれるんだろ?

俺たちに前にまた…戻ってきてくれるんだろ?

違うか……?


俺は信じる。

信じてやるよ……。


俺にとっても船長は……ちょっと粋がって手のつけられねぇ頑固な息子みたいなもんだからな。


息子の進む道を…見守ってやるよ。』


『おっ……俺も…。

俺も…船長の道を信じる。

ここが無くなるのは悔しいけどさ、俺は船長の心意気ってのに惚れてんだ。

船長が決めた事なら……船長が行く道ならきっともっともっと痺れるような厳しい道なんだろ?

それでも行くなら…俺は待つよ。

ここで待つ。』

『お前………』

『船長…。この船…俺にくれねぇか……。』

『料理長……なにを…言ってる・・・・』

『もちろん、海賊なんてしねぇからさ。
あんたが居ないんじゃ、悔しいけどなんにもできねーし、
そもそもこの船は名ばかりの海賊船だろ。

でも…あんたを失ったからって船は無くなる訳じゃねぇ。

なら…船長の代わりに俺が守っていく。

報酬なんていらねー……。

みんなでちまちま魚でもとって、
のんびり暮らすさ。


俺があんたの代わりに守っていくよ。

この船も、
ここに居る家族もな。』


いつもはどこか頼りなくて、
暇さえあれば酒ばかりを呑んでいた料理長が、

今はその背筋を伸ばし、
汚れまくっているコック服姿のまま、
右手を胸にあて、誓いの仕草をして見せた。

ミノの事を知っている料理長は…なにかを察したのだろう。

小さくウインクをしてユノに微笑んで見せた。


『料理長………。』


『船長…任せてくだせーよ。

あんたの帰る場所、

俺たちが何としても守って見せるさ。


だから…あんたはあんたの道を進めばいい。

そこに居るチャンミンとな………。』





あとがき。

長々と更新が遅れてしまってすいませんでした。


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