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海賊に恋をして 57

それからどれくらい経ったのだろう…。

僕は泣き疲れて深い眠りに落ちていた。

周りを見渡すと、さっきよりは明るくなっていて、
料理長しか居なかった洞窟の中には、かつての仲間が3人集まっていた。



足枷が外される。




『チャンミン、行くぞ。』

『チャンミン…ごめんな…』



皆…言葉は少なかった。




既に全身の力を失った僕にとって…もう……自力で歩ける気力さえ残っていない。


両脇を抱えられながら、僕は洞窟をあとにした。


ユノさんと初めて会ったのも…洞窟だった。


最後も…ここ…なんだね……


もう枯れ果てたと思っていた涙が頬を伝う。




ずっと目指していた城が…どんどんと遠くなる。

何度も何度も振り返り、その度に前を向かされて。



『チャンミン…ユノ様の想いを忘れるな。』



何度、言い聞かせられただろう。



この命が…ユノさんの願い…?


こんな力のない僕が…ユノさんの願いだと言うの…?





ユノさんを失った僕は…この先…どうやって生きていったら……いいの……?


自問自答を繰り返す中、

ユノさんと共に過ごした宿が見えた。




もう…ここまで戻ってしまったのか…。




ここで…ユノさんとたくさん笑い合った。

ここで…ユノさんに何度も抱かれた。



愛してる……


お前を離さない……


ずっと一緒だ……


そう何度も…何度も耳元で囁かれながら…。



幸せだった。




幸せ…過ぎたんだ…… 。




ユノさんとずっと一緒に居れる時間があまりにも………幸せだったんだと悲しい思い出に変わった宿を通り過ぎるしかなかった………。




『おや…?お兄さん…あの時の……?』



ふいに声を掛けられたのは、ユノさんの髪結いを買った店主だった。



『あの色、だんなは気に入ったかい?』


『えっ…?』


『あんた、あの時、とても幸せそうな顔して言ったじゃないか?

大切な人に贈るんだって。この赤い色がその人には一番似合うからって。

あれはさ、一点ものだったからさ、良く覚えてるんだ。』


幸せな気持ちで買ったはずの店の前…。


僕はもう…笑う事すら出来ない…。


力なく通り過ぎようとした瞬間、




『あっ…そう言えば…』


そう言って店主は銭袋から何かを取り出した。



『そう言えば…その髪結いをした旦那がここに来たよ。』


『えっ……』


ユノさんが…ここに…?


『あぁ、その時、そのだんなが言ったんだよ。

もしも…前にこの赤い髪結いを買った人に会ったら、お返しにこれを渡してくれって。』


そう言って目の前に差し出されたのは…、


僕がユノさんに贈ったそれと全く同じもの………。

僕がユノさんに似合うと思って買ったあの赤い髪結いだった…。



『これって…』


『そのだんな、自分のと同じ物を欲しかったみたいだけどさ、あれは1点ものだったろ?

それでもどうしても手に入れたいと言ってさ…。

無いなら、また同じ糸で、同じ様に編んでくれって言うんだよ。

今の時期、赤い糸はなかなか手に入らなかったんだけどさ、
その旦那、隣街の商人からわざわざ同じ糸を買って来て、
手間代は倍払うから編んでくれって言ったんだよ。

うちもなにかと忙しかったけど、

3日以内に作ってくれって頭まで下げられてさ。


それで編んだんだ。


3日後…あんたがこの道を必ず通るから、その時に渡してくれって。


会えてよかったよ。

確かに渡したよ。 』


『これを…ユノさんが…僕に………』

店主はその髪結いを僕の手の平にしっかりとおさめた。



『それから…この残った糸……、持って行きな…。』


そう言いながら、左のポケットから何やら取り出す。



『この糸は…願いを叶える糸でもあるんだ。

この真紅の糸は…必ず繋がる。

いつか必ず…。

切れる事無く運命の2人を繋いでくれるから………。』


そう言って店主は優しく微笑んだ。





ユノ……さん………

こんな事……こんな事………。

あなたは……決めていたんだね……。

あなたと引き離されて…僕がこの道をもう一度通るって………


ふたりで居た時から………もう…決めていたんだね……。


だから…こんな事……。




僕の手に乗せられた赤い髪結い…。





それは確かに僕がユノさんに贈ったものと同じ…………。


出発の朝にも……僕の好きなあの黒髪にしっかりと僕が結んだものと同じだった………。



最後に見たユノさんの後ろ姿。

その漆黒の髪に浮かぶあの赤い髪結いと同じものが…今…僕の手の中にある。




『ユノっ……さん…………』



瞼を閉じると浮かぶユノさんの姿。





この赤い糸は願いを叶える


必ず…繋がる


真紅の糸は…必ず……



僕の手の中にある真紅の糸………。



もしも……もしもそれが本当なら…僕は………僕は………。






『料理長……僕………』


『チャンミン………?』


『お願いがあります……

これが…僕の………、

僕の……最後の願いです………。

そして…、

それはきっと………ユノさんの願いでもあるんです………。』




手の中にあるその髪結いをしっかりと握りしめ、僕は料理長を真っ直ぐに見つめる。




『チャンミン………ダメだ。

それだけはダメだ!!


…俺は…俺はユノ様に約束した。

お前を船まで連れて行くと。』



最後の願いを言葉にする前に、その願いを悟った料理長は首を横に振った…。



『料理長…お願いです。


僕をユノさんの所に行かせてください。


僕を……このまま…自由にして………。


ユノさんは僕を守れとおっしゃったのでしょう…? 』


『そうだ。お前を必ず生かせと。

それが俺の願いだと!!


だからダメだ。このままお前を船に連れて行く。』


『料理長………。

ごめんなさい……。

僕は…船には行かない。


それでも…今…、


どうしても僕を船に連れ戻すとおっしゃるなら…、



僕は今すぐ……、


この剣で命を絶ちます。


ユノさんから貰ったこの剣で……。』


僕は腰に携えた鞘から剣を抜く。




『っつ!!チャンミン!!!!』




『料理長…………。


僕は…僕は…ユノさんと同じなのです………。

ユノさんと…同じなのです………。



僕にとってユノさんが居ない事は………死ぬことと同じ。


ユノさんが居ない世界で…どう息をしたらいいのか…今の僕には分からない…。

この先…ユノさんを失ったら…僕は…生きていても意味がないんです。

いくら僕の中でユノさんが生き続けると言っても…それは…無理なんです………。

無理……なんです………。

ならば…ならばいっそ…僕はユノさんと同じ運命を背負います。


あの人の傍で…あの人と一緒に……。』


『チャンミン…………』



『一人で生きる道など…ユノさんの居ない道など………死と同じ。

僕はユノさんと生きる。

料理長…ユノさんと約束したんでしょ…?

僕を生かすって…。


だったら……僕を生かしたいなら………、


ユノさんの所に行かせてください。』





そう………これが僕が生きる道だ。


これが僕の…最後の願いだから……。




『もう…僕にはなにもない……。

失うものもない。

ユノさんの居ない世界に…生きていたくはないんです。

守られてばかりの道なんてもう要らない。


だから…お願いします。


料理長、

僕を…僕をここで捨てて下さい。


僕を…逃がしてっ………。



僕が僕の意志で生きる道を選ばせて!!



お願い…料理長………僕をユノさんの所に行かせてっ……… !!』


『ダメだ……ダメだチャンミン!!

お前は生きるべきだ!!

ユノ様の最後の想いを無駄にするな!!』


料理長は僕が手にしている剣を奪おうと近付いてくる……。


でも…僕はその目を逸らす事なく後退りする。


ユノさんから貰った剣を胸にあてながら…。


これは僕の最後の賭けだ。



『料理長……あなたは本当は分かってるはずだ。


ユノさんにとって何が本当の幸せか。

僕にとって何が本当の幸せか……………。




僕たちにとって…なにが本当の道なのか……。


あなたなら…あなただからこそ………、


分かって下さいますよね………。』




お願い……お願いだから……僕を行かせて………。





僕は剣先を心臓へと向ける。


ユノさんの所に行けないのなら、



僕はもう…。








『ダメだ…やめるんだチャンミン!!

できない…俺には出来ない…。

お前を守ると誓った!!

初めてだったんだ…あのユノ様が頭を下げて、こんな俺にお前を託したんだ…。

………そんなユノ様に誓ったんだ!!』



料理長は素手で剣を握りながら、涙を流して僕を制した。



流れ落ちた赤い血…。


苦痛に顔を歪めながらも、


料理長はその手を離さなかった。




『料理長!!』




僕にはもう…何も無い。

この願いが届かないなら…もう…僕は…。


僕は自らの短剣でその胸に突き立てる。




『やめろ…チャンミン…ユノ様の想いを無に…するな…』




料理長…ごめんなさい…


僕はもう…、


ユノさんの居ない世界になど…、



生きていたくない…………。





覚悟を決めた瞬間、


両手首に強い痛みを感じたと思った瞬間、



手にしていた短剣が一瞬で消えた。








『チャンミン。

ユノ様の想いを自らの手で汚す気か?』






その声の先……、


僕の短剣を手に持ちながら立ちはだかる人間…………。


そこに居たのは…、


片腕を失ったあの人が立っていたのだ…………。



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