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海賊に恋をして 61

殆んど灯りのない長い廊下を、

言葉無く歩く…。

憎んでも憎み切れない兄の後ろを……今はただ黙って。

握り締めた剣が無駄に空を切る音だけが響く……。

松明が揺らめく廊下を兄のその背を見つめ、
自分の後ろにはドンへがぐたりとしながら敵の肩に担がれ、
その長い前髪が力なく揺れているのが分かる………。

ドンへは気を失い、そんなあいつの首には常に剣先が向けられている。

前には兄一人…。

しかし自分達の後ろには何十もの兵士。

兄に導かれるまま、

ユノはただその背を見つめるしかなかった。



自分を討つ為にここまで来た俺が後ろにいると言うのに、


兄は一切後ろを見ない。


いつ自分に斬られてもおかしくない状況でも、
兄は警戒する事もなく、その凛とした姿のまま俺たちを導いた。


兄の剣は…鞘に納まったままだ…。


いっそ…このまま斬ってしまえば………。

その無防備な背中をじっと見つめたまま、ユノは剣を握りしめた手の平にぐっと力を込める。

1歩…また1歩と進む中、

ユノはいつだって兄を斬る自信はあった。

その為に…いや…その為だけではなく、

チャンミンを守る為に剣術を磨いて来た。

この剣一つで…あの命を守る為に…ずっとずっと……。

だからこそ、

いつだってこの背を斬れる。


しかし…それを許さないのは………兄の背から伝わるその威圧感……。


剣さえ手にしていないただの無防備な背中なのに。

憎き相手なのに。



こいつさえ……討てば………。


ユノは後ろの兵に気が付かれないよう、
その歩みを進め、兄との距離をほんの少しだけ…縮めた。


しかし、その瞬間、



『ユノ…無駄な事はやめろ。』


一切その姿をぶらす事なく、兄が呟く。


自分が距離を詰めた事も、

手にした剣に力を込めた事も分かり切っているかのように、

それでもその後姿はなにも変えないままで……。


『うっ………』


後ろから聞こえたドンへの唸り声…。


全て…全て…見透かされているかのように、

ユノが握りしめた拳だけが虚しく力を失くす……。



長い廊下を渡り切り、

角を曲がる。


更に漆黒に包まれた廊下を少し進むと、


兄が静かに言葉を発した。


『そう言えば昔……もう…ずっとずっと昔に、

こうしてお前の前を歩いたな…ユノ……』


右手に持っていた松明を左手に持ち替えた兄がそう……呟く。


『昔もこうして…お前の前を……。

お前は子犬の様に俺の後ろをついてきてはヒョン…ヒョンって……。

今、お前が持っている剣の半分にも満たない剣を持って。

あの頃はまだ…幸せだったのかもしれないな。

なにも背負わず、

なにも……考えず…自由だった………。』


揺らめく松明の灯りに吸い込まれそうな程の小さな声で呟く兄……。



なにを突然……。


なにを突然…話しているんだ……。


この人は一体…なにを………。


少しだけ…ほんの少しだけ…その頭がうな垂れたのが分かった。

でもそれはほんの一瞬で、

またすぐにその背から怖いほどの威圧感が伝わってくる……。





確かに昔は…この人が好きで…この人が誇らしかった………

誰よりも強くて…誰よりも優しくて……誰よりも…俺を……愛してくれていた………。

それを一番分かっているのも……自分だ……。




でも今は違う……


父を……国を………


俺をっ!!



『俺はもう…昔の幼かった俺ではない。

俺は必ずあなたを斬る。

その為だけにここに来たんだ。

その為だけに。』


ユノはその背から目を逸らす事なくそう…呟く。


『そうだな。俺ももう…あの頃の俺じゃない。

今はただ…お前を……お前を斬るのみだ………ユノ…………

それはどんな手を使ってでも……だ。


さぁ…ユノ。


ここがお前の最期の場所だ……………』



兄の足がぴたりと止まり、初めてその身を引く。


『さぁ、自分の手で…最期の場所の扉を開くんだ、ユノ。』


先程とは違う目で俺を見る兄。


ここにきて、初めて自らの剣を鞘から引き抜き、
まだ気を失っているドンへの喉元にあてる。



『さぁ、ユノ。』

ユノはギロリと兄を睨んだあと、

言われるままに差し出した手で開け放つ。


部屋の奥…………。



誰かが……ぐたりとうな垂れながら、

それでもその身を必死に震わせているのが…分かった。


僅かな光の中………

兄に手渡された松明を頼りに、

ユノが静かに部屋の中へと歩みを進める。



そして……、


揺らめくその灯が浮かび上がらさせたのは……、



『チャン…ミン…………』



見間違えるはずはない……。


どうしても守りたかった人……。

なににも変えられない…一番大切なもの………。


愛しくて恋しくて…それでもその命を守る為に手放した……愛しい人………。


その人が今………


なぜにチャンミンがここに………


逃がしたはずのチャンミンが…なぜ…この城の中にっ………




『チャンミンっ!!』


『ぐっ……ユっ……ぐっ………』


口を布で塞がれながら、それでも必死に俺を見つめ、



言葉を紡ごうとするチャンミンがそこには居たんだ…………。






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